夕方、眠気を覚まそうとインスタントのコーヒーを淹れていると、
研究室にいつもにも増して興奮した様子のアクロマ博士が駆け込んできた。

「ナマエさん!面白いものを見つけましたよっ!」

「へぇ、今回はどんな子なんですか」


アクロマ博士の研究内容はポケモンの潜在能力を引き出す方法について。
私達はそのために各地を回り、
ポケモンの能力を引き出す資質のあるトレーナーを探しているのだ。


「まだバッジ3個のトレーナーなのですが、
 どういう訳かそれはそれは素晴らしくポケモンの能力を引き出しているのですっ!
 いやはや、実に興味深い!!」


差し出したコーヒーも飲まずにまくし立てる様子からも、
彼にとってどんなに魅力的なトレーナーかが伝わってきた。

彼の、我を忘れて子供のようにはしゃぐ様はいつ見ても可愛らしい。
……年上の、それも男性に可愛らしいというのもいささか失礼な気もするが。






「今回は、どこまで行けますかね」

そう言って私はコーヒーに口をつけた。
安息感とともに心地よい苦みが口内に広がる。


「そうですね。
 わたくしとしてもこれ以上研究が滞るのは避けたいものです」

なにせ生身の人間相手なのだ。
有望だと思っていたトレーナーを何度研究対象から外したか分からない。



「ああ、私からの報告ですが、508番はトレーナーを辞め、
 ブリーダーを目指すそうです。722番は映画俳優を目指すとか」

「おや、508番が……残念ですね。彼には期待していたのですが」


やれやれと首を振り、博士はそこでようやくコーヒーを一口飲んだ。
508番は本当に優秀なトレーナーだった。
確かソウリュウジムあたりまでは制覇していたはずだ。
あと一歩でポケモンリーグへの切符を掴めたのに。
えてして人の行動というものは他人にはどうにも不可解である。





「それはさておき、ナマエさん!」

「はい」

「わたくし、PWTに出場しようと思うのですが!」

「……はあ。」


PWTとはすなわちポケモンワールドトーナメント。
ホドモエシティの南に新しく建設されたバトル施設である。
最初はホドモエを中心に腕に覚えのあるトレーナーが挑戦する程度だが、
そのうち有名なトレーナーを呼んで世界中から客を集めるらしい。
運営開始は確か、一週間後……だったか。



「名案だとは思いませんか!」

「確かに効率の良い方法だとは思いますが、大丈夫ですかね」

私達一応プラズマ団ですし。
二年前の事件に関わっていないにしても、
プラズマ団自体が世間からあまりよく思われていないのは事実だ。


「大丈夫ですよ。
 わたくしがプラズマ団に所属していることは、
 まだ誰にも気づかれてはいないようですから」

でなければ、このように自由にはフィールドワークに出かけられませんよ。と、笑われた。
しかし、一対一のバトルならまだしも、一度に大勢の目に触れるとなると。


「まぁ、ナマエさんの杞憂も最もです。
 プラズマ団の活動が活発になってくれば、
 今まで通りに、という訳にはいかなくなりますね」


最近、各地でポケモンをプラズマ団に奪われたという事件がニュースを賑わせている。
二年間の沈黙を破り、本格的に動き出したということか……。



「……さてと。
 夕食をとったらもう一頑張りしましょうか!」

「はい!」







(2012/08/28)




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