「……まさか! せっかく用意したブラックキュレムが!! なんと忌々ましい! 消えたキュレムをまた確保せねばならんではないか!」 ゲーチスは怒りをあらわにし、杖を鳴らす。 「やはり目障りなトレーナーはワタクシが手をくだしましょう! 今度こそ! だれがなにをしようと! ワタクシをとめることはできない!」 怒り狂うゲーチスを黙って見つめるキョウヘイ君の後ろで、 「よし、ルカリオ、いっておいで」と、 キャップ帽の青年がルカリオの背をそっと押した。 彼の手には回復の薬。 どうやら青年はゲーチスが喋っていた僅かの隙に、ルカリオを回復していたようだ。 ルカリオは青年に一礼をしてからキョウヘイ君の前に歩み出た。 対するゲーチスはデスカーンを繰り出す。 「何度……何度この場面を思い描いたことか……!」 「……はか、せ?」 博士は自分自身を抱きしめるかのように腕を前でクロスし、 少し前のめりになって食い入るように画面を凝視していた。 「はぁ、ゾクゾクしますッ!」 博士の息が荒い。 頬も紅潮し、額には汗が浮かんでいる。 彼の自らの腕を掴む手にさらに力が入る。 「ルカリオ! シャドーボール!!」 「デスカーン! シャドーボール!!」 お互いから放たれた黒い影の塊は二匹の丁度中間地点でぶつかり、弾け散った。 技自体の威力は五分五分といったところか。 しかしデスカーンはゴーストタイプ。 ルカリオのシャドーボールが決まればひとたまりも無いはずだ。 二匹の勇姿を見て、アクロマ博士は拳を握り、声を張り上げる。 「さぁっ! もっとぶつかり合いなさいっ!」 「デスカーン! サイコキネシス!!」 ゲーチスがそう指示を出すとデスカーンのサイコキネシスによりルカリオが浮遊した。 ルカリオは徐々に上昇してゆく。 ルカリオは首に見えない縄をかけられているかのように、 前足を首の付け根にあてがい、苦しそうに悶えている。 ゲーチスはその様子を見てほくそ笑んだ。 「ルカリオッ!」 「そのまま叩きつけてしましないさい!!」 ルカリオの体は人形のように弄ばれ、 地面へと叩きつけられる。 しかし、ルカリオは舞い上がる砂の中から立ち上がったと思うや否や、 弾丸のように一目散にデスカーンに走り詰める。 「ルカリオ! シャドーボール!!」 ルカリオが走りながら構えを取り、シャドーボールを撃つ。 「デスカーン! まもる!!」 ゲーチスのとっさの判断でまもるが決まり、シャドーボールが無効化される。 しかしルカリオは攻撃の手を休めず、シャドーボールを打ち出す。 デスカーンの集中力が切れるのもあともう少しだ。 まもるという技はありとあらゆる攻撃をガードできるが、そんなに長くは持たない。 その映像を何かに憑かれたように博士はうっとりと見つめ、言葉を漏らす。 「ああっ……いいですよ……そうですっ! もっと、もっと潜在能力を引き出すのです!」 そして、その時は訪れる。 相次ぐ攻撃に耐えかねたシールドは破壊され、シャドーボールがデスカーンを直撃する。 シャドーボールをまともに食らったデスカーンは地面へと倒れた。 しかし、ゲーチスはデスカーンをボールに戻すと不気味に笑った。 「それぐらい計算済みですとも! 今のはほんの小手調べなのですよ!!」 次にゲーチスがくり出したのはしんどうポケモンのガマゲロゲだ。 「ルカリオ! はどうだん!!」 「ガマゲロゲ! じしんです!!」 地面が大きく揺れ、はどうだんを撃つ間も無くルカリオが弾き飛ばされる。 「ルカリオッ!」 キョウヘイ君が呼び掛けるにもかかわらず、 ルカリオはうつ伏せのまま立ち上がる気配は無かった。 戦闘不能だ。 「……ありがとう、ルカリオ」 キョウヘイ君はルカリオをボールに戻す。 「頼むぞ! ヤナッキー!!」 キョウヘイ君がボールを投げる。 フィールド上に現れたのはとげざるポケモンのヤナッキーだ。 「ヤナッキー! ソーラービーム!!」 ヤナッキーが構えを取り、 向かい合わせた手のひらの間に光エネルギーを集中させていく。 「ガマゲロゲ! ヘドロウェーブ!!」 ゲーチスがそう命令するとあっという間に、 大量のヘドロが波となってうねり、ヤナッキーに襲いかかる。 ヤナッキーが波に呑み込まれる、その瞬間にキョウヘイ君は叫ぶ。 「今だっ!」 ヤナッキーの手から光の光線が放たれる。 一直線に伸びる光は波を真っ二つに分断し、ヘドロの先にいたガマゲロゲを貫いた。 こうかはばつぐんだ! ソーラービームを受けたガマゲロゲはその場で仰向けに倒れた。 ゲーチスはガマゲロゲをボールに戻す。 「この、役立たずが!」 苦虫を噛み潰したような顔をしながらそう吐き捨てると、シビルドンをくり出した。 「身体が……熱い……」 博士はおもむろに椅子から立ち上がるが、ふらりとよろめく。 だらしなく開かれた唇からは吐息が漏れる。 「博士、大丈夫ですかっ?」 「ええ、大丈夫ですっ……」 そう言いながら彼は一心不乱に白衣を脱ぎ捨て、 ハイネックの一番上のボタンに手をかけた。 (2012/09/14) ← ×
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