博士の望みは、プラズマ団という科学的アプローチに特化したサンプルと、
トレーナーというポケモンをどこまでも信じているサンプルをぶつけ、結果を得ること。


アクロマ博士について行こうと、行かないにしろ、
そもそも私の手に負える問題ではなかった。

私があのとき博士の申し出を断っていたところで、
博士は別の助手と共に研究を続けただろうし、
アクロマ博士を説得し、止められたとして、
ゲーチスは他の科学者を雇うだけだろう。

どんなに足掻いたところで、私にどうこうできる話では無かったのだ。

世界がそうなるなら、仕方ない。
それならばせめて、博士の望む答えを。


世界の存亡をかけての実験なんて、こんなチャンス、またと無いんだから。



それに、キョウヘイ君なら、きっと大丈夫。






操縦室に戻ってくると、
博士は操縦席に座り前面に設置されたディスプレイを見ていた。
マップが表示されていた画面にはジャイアントホールの様子が映し出されている。


博士は私に気付くと、不機嫌そうな顔をして言った。


「ナマエさん! 遅いっ!!」

「……すいません」


私は博士に謝ると、ジャイアントホールから送られてくる映像に目をもどした。




ここで、すべてが、決まる。
キョウヘイ君が勝つのか、プラズマ団が勝つのか。
これは、私たちにとって、人とポケモンの関わりはどう在るべきかを決める戦い。

英雄のポケモンと遺伝子の楔により合体したキュレムと、キョウヘイ君が対峙している。

キュレムの後ろにはゲーチス、そしてキョウヘイ君の隣には見覚えのある青年が。

癖のある緑の長髪にキャップ帽。
あの青年は、電気石の洞穴で出会った……。


「微かだがトモダチの……ゼクロムの声がきこえる、
 まだ分離できる……と。
 お願いだ! ボクのトモダチを助けてくれ!
 そしてイッシュのポケモンもヒトも……」

青年の頼みに、しっかりとうなずくキョウヘイ君。



「さあ! ワタクシはアナタの絶望する
 瞬間の顔がみたいのだ!」

ドンッ、とゲーチスが地面に杖を突く。

「イッシュを守るため戦う!
 アナタのような端役にはもったいない、 とっておきの舞台を用意してあげたのです!
 負けて華々しく散れ! 」


キョウヘイ君が前に歩み出る。



「いけっ! ルカリオ!!」

キョウヘイ君は掛け声と共にモンスターポールを投げルカリオを繰り出した。
巨大な竜とキョウヘイ君との間に立ちはだかるルカリオ。
しかしルカリオはブラックキュレムの三分の一くらいの大きさしかない。


「ブラックキュレム! フリーズボルト!!」

ブラックキュレムの正面で氷の固まりが形成されていく。
巨大な氷塊は電気を帯びている。

「ルカリオ! はどうだん!」

ブラックキュレムがエネルギーを溜め込んでいる間に、
ルカリオが猛攻する。


「放て!」

ブラックキュレムからフリーズボルトが放たれる。
フリーズボルトをまともにくらったルカリオは氷の固まりと共に壁に叩きつけられる。

「ルカリオッ!!」


が、壁を蹴って離れ地面に降り立つと、さっと立ち上がり、構えを取るルカリオ。


博士の眼鏡が怪しく光り、口元に笑みが浮かぶ。

「さぁっ! もっとポケモンを信じるのですっ!」







りゅうのいぶき、クロスサンダー……次々と強力な技が
キョウヘイ君のルカリオに襲い掛かる。

ルカリオはキュレムの周りを走り回り、攻撃をかわしながら、
はどうだんを撃ち、ブラックキュレムの体力を削っていく。


「ブラックキュレム! フリーズボルト!!」

まただ……ブラックキュレムの大技、フリーズボルト!
次にあれをくらえばルカリオはやられてしまうかもしれない。


「放て!」

ゲーチスの合図と共に電流を纏った氷の弾丸がルカリオめがけて飛んでいく。

衝突した衝撃で砂埃が舞い上がる。


しかし、キョウヘイ君はしっかりと前を見据えたまま、何も言わない。


徐々におさまってゆく砂煙。

けれども、ルカリオの姿がどこにも見当たらない。
ブラックキュレムも首を動かし、辺りを探している。


「どこに消えたっ!!」

うろたえたゲーチスが声を上げたその瞬間、
キョウヘイ君がニヤリと笑った。


「まさかッ!!」

ゲーチスの顔が青ざめる。
なんとルカリオは、巨大なブラックキュレムの、
その腹の下に潜り込んでいたのだ。



「ルカリオ! はどうだん!!」

戦線で大砲を撃つ命令を出すように、キョウヘイ君の声が洞窟に響く。


ルカリオから打ち出される青い砲弾。

この距離では流石にブラックキュレムも避けきれまい。

あまりの衝撃にブラックキュレムは仰向けに倒れた。
その拍子にキュレムからゼクロムが分離した。




「やった! キュレムからゼクロムが分離した!!」

私は思わず言葉を漏らす。


「素晴らしい! グレードですっ!!」

博士も手を叩きキョウヘイ君とルカリオ賞賛を送った。


分離したゼクロムは青年の元へ戻り、
キュレムは背から生える歪な翼を動かして羽ばたき、どこかへと姿を消した。







(2012/09/12)




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