「アクロマ博士、お疲れ様です」 「見ましたかナマエさんっ!」 「ええ」 「ああっ! 素晴らしい! 何故あのようにポケモンの潜在能力を引き出すことができるのか!」 アクロマ博士は落ち着かない様子で操縦室の中を行ったり来たりしている。 キョウヘイ君とゲーチスがジャイアントホールで雌雄を決するには、 まだ、少しばかり時間があるだろう。 よし! 私はポケットの中のモンスターボールを握り締めると、 部屋の入り口に設置されているワープパネルまで駆け出した。 「ナマエさん! お待ちなさいっ! こんな時にどこへ行くというのですっ!!」 「すぐ戻ってきますからー!」 博士の制止を振り切って、私はワープパネルに飛び乗った。 ワープパネルを降りる。 すると当然のように目に飛び込んできたのは負傷した団員やポケモン達。 動ける者は、怪我をした者の手当てに回っている。 「出てきて! ランクルス!!」 私がボールを真上に投げ上げると、ランクルスが出てきた。 「ランクルス! サイコキネシスで動けない人をベッドに運んで!」 慎重にね、と目配せすると、 ランクルスはまかせておけとばかりに、しっかりと頷いた。 「ああ、ナマエさん。助かります。 私のポケモンもやられてしまっていて」 振り返るとそこにいたのはプラズマフリゲートの船医であった。 「私に何か手伝えることはありませんか?」 私がそう尋ねると、ドクターは少し考えてから答えた。 「そうですね、病人を運ぶのはランクルスにお願いするとして、 あなたにはポケモンに薬を配ってもらいましょうか」 医務室に行き、ポケモン用の薬の入った重たいダンボール箱を受け取る。 どくけし、まひなおし、やけどなおし……。 どれも普段トレーナーが使用している小型のスプレー式の市販薬だ。 様々な種類の薬が入っていたが、ラベルがきちっと貼られており、 薬の入っている容器自体もそれぞれ色が違う。 私はそのダンボール箱を持って、船内を回った。 トレーナーが傍についているポケモンには、トレーナーに薬を渡し、 ポケモンのみの場合には、症状に合わせて薬を患部に吹きかけた。 フリゲート内にいるほぼ全てのポケモンに薬が行き届いた頃、 ふと、一人のプラズマ団員に呼びとめられた。 「ああ、助手さん」 見ると男は廊下の壁に寄りかかり、足を伸ばして座っていた。 頭には包帯を巻いている。 「アクロマさん負けたんだな」 彼はそういうと、操縦室のある方向を向いた。 「さっきサンバイザーのガキが 操縦室を出てゲーチス様の部屋に走ってくのが見えたんだ」 男は宙を見上げ、呟く。 「俺も分かってたよ。裏で糸を引いていたのはゲーチス様だって。 ……でも、ゲーチス様ならきっと」 ゲーチスは今頃ジャイアントホールへとキュレムと共に移動しているだろう。 イッシュ全土をキュレムの力によってを氷漬けにし、 それによってイッシュの民を支配する計画を完了させる為に。 「もうすぐ、俺達が正しいって証明されるんだ」 私は答えない。 「ははっ、長かったなぁ」 彼は笑う。 けれども、その姿はシアワセそうというよりは、 どちらかというと痛々しかった。 「助手さんも喜んでくれよ、なぁ」 彼は同意を求めこちらを見たが、私は笑わなかった。 そして、言った。 「私は、博士の味方ですから」 くるりときびすを返し、歩き出す。 しばらく歩いたところで後ろから声が飛んだ。 「あんたも、裏切られねぇようにな」 私は立ち止まり、振り返るときっぱりと言った。 「博士は裏切りませんし、 たとえ裏切られると分かっていても、私は博士についていきます」 貴方も、そうでしょう? そう微笑むと、「だあな」と、彼もニヤリと笑った。 (2012/09/11) ← ×
|