「ようやく! ようやくわたくしの望む答が!」

「ええ。そうですね」

「おや、ナマエさん。あなた、嬉しくはないのですか?」

「いいえ、そんなことは」


ない、といい切れるだろうか。

私はアクロマ博士の元に戻ってきた今でも、
キョウヘイ君が戦うのには完全には賛成できない。

いくらキョウヘイ君が強いトレーナーであっても、
パートナーのポケモンがどれほど頼りになろうと、
相手は極悪非道な大人達だ。下手をしたら命を落とすことだって有り得る。


現在、プラズマフリゲートはキュレムのパワースポットである
ジャイアントホールの近くに停泊していた。
キュレムの力を最大限発揮させるため、
最終的にはキュレムをジャイアントホールに移動させるらしい。

そしてそれを阻止するために、
キョウヘイ君とその仲間がプラズマフリゲートに乗り込んできていた。

もうすぐ、彼はプラズマ団のボスである博士の下へたどり着くだろう。


「ナマエさんは別室でデータの解析をお願いします」






私は研究室で解析、博士は操縦室でキョウヘイ君を待ち構える。

私は研究室に着くと、パソコンを起動させ、
その画面に博士のいる操縦室の様子を映した。


今か今かと待っていると、
ワープパネルからキョウヘイ君が現われた。

博士は高い位置に設置された操縦席からおもむろに立ち上がると、
キョウヘイ君を見下ろした。


「ようこそ!」


博士の威厳のある声が緊迫した操縦室に響き渡る。

キョウヘイ君は信じられないといった顔でアクロマ博士を見据えていた。
驚くのも無理は無い。
彼は、博士がプラズマ団のボスであるということを知らなかったのだから。

彼からすれば、勝負のお礼だと言っては便利なアイテムをくれたり、
時には助言をしてくれたり、プラズマ団への潜入に手を貸してくれたりと、
そんな親切なアクロマ博士を、完全に信用は出来ないにしろ、
少なくともプラズマ団側の人間だったとは思っていなかったに違いない。


博士は語り出す。


「わたくしは知り合いに頼まれ、研究を手伝っていました!
 わたくしの望みはポケモンの能力を完全に引き出すこと!
 それが出来るなら、手段は何でもいいのです!」


博士はゆっくりと階段を降り、キョウヘイ君に近づいていく。
キョウヘイ君はじっと動かずに博士の挙動を見つめている。
否、動けないのだ。博士のその、威圧感に。


「あなたがたトレーナーのように、心と心の交流でポケモンの強さを発揮させても、
 プラズマ団のように、無慈悲なアプローチで無理矢理ポケモンの強さを引き出しても!」


少年のスポーツバックの肩紐を握る手に力がこもる。


「そう! そしてその結果、世界が滅ぶとしても!」

博士は両手を大きく広げ、宙を見上げた。
その姿はまるで舞台に立つ役者のようだ。
操縦室の照明が、博士を照らす。


その瞬間、キョウヘイ君の大きな目が見開かれる。

恐らく彼も思ったのだろう。
この人が“こわい”と。

その、底知れなさに。



「それはさておき!
 わたくしがイッシュの各地で、
 数多くのポケモントレーナーと勝負をしていたのは、
 ポケモンの強さを引き出せるか?
 その資質を見ていたからです!」

博士は階段を下りて数歩進んだところで立ち止まり、
キョウヘイ君と向かい合った。


「そういう意味で、あなた、とても優秀です!」

その声色は感情のかけらもないような冷たいものだった。
博士の実験動物でも見るような無機質な金色の目。


「さあ! わたくしの望む答えを持つのか教えなさい!
 心の準備が出来たら、わたくしにかかってくるのです!」


キョウヘイ君はそこでようやく体を動かした。
肩を回し、深呼吸をして、足を一歩前に出し、
マウンドに立つピッチャーのごとく、ボールを構えた。



「準備はいいようですね!
 では、いきますよ!!」





(2012/09/09)




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