夕方、実験室で一人研究データをまとめていると、突然警報が鳴った。 <侵入者アリ!侵入者アリ!> 研究室のドアをわずかに開け、隙間から外の様子をのぞき見ると、 団員達が慌しく動き回っていた。 そばにいた団員達の会話が耳に飛び込んでくる。 「侵入者の特徴は、」 「ああ、例の赤いサンバイザーのガキだよ! チィッ!……ったく、足止めにイワパレスを置いておいたのによっ!」 ふと、団員の一人と目が合いそうになったのでドアをそっと閉める。 赤いサンバイザーのガキ。これはおそらくキョウヘイ君だろう。 しかし、足止め用のイワパレス……。 今、プラズマフリゲートは21番水道の入り江に停泊していた。 岩場に囲まれたこの場所は、海から上がってくる他は、海辺の洞穴を通るしかない。 大方、その狭い出入り口をイワパレスで塞いでいたのだろう。 イワパレスといえばアクロママシーンと呼ばれる、 ポケモンを活性化させる装置の実験によく使用していたポケモンだ。 仮死状態のイワパレスにアクロママシーンを使用すると、 今まで岩のように固まっていたことが嘘のように彼らは活動を始める。 まさか、な。 「ただいま戻りました」 声のした方を向くと、リグレーを連れたアクロマ博士が姿を現していた。 テレポートで戻ってきたのだ。 「なにやら騒がしいようですね」 「ええ、この船に侵入者が現われたようですから」 「おや、それは」 困りましたね、などどまた呑気なことを言っている。 仮にもプラズマ団のトップであるはずなのに。 「侵入者は、キョウヘイ君だったみたいです」 「ほう」 「アクロマ博士、何か知っているんじゃないですか」 「いえ、わたくしは何も」 それはさておきコーヒーを淹れてはくれませんか、 なんてとぼけた言葉を遮って、私は口を開く。 「洞窟の出入り口にはイワパレスが配置されていたはずです。 海から上がってくるならまだしも、イワパレスをどこかへ移動して侵入するなんて。 まぁ最も、海から上がってくるにはこのあたりの海流や地形の構造に詳しく無ければ 到底不可能だとは思いますけど」 私はそこまで一息に言うと、アクロマ博士を見据えた。 「アクロマ博士、答えて下さい」 彼は答えない。 「アクロマ博士っ!」 叩きつけるように叫ぶ。 わずかの沈黙。 金の目は揺るがない。 そうして博士の口から出た言葉は思いもよらぬものだった。 「ナマエさん。今から二人っきりでデートでもしますか!」 「はぁ!? な、何言って」 アクロマ博士が私の肩を抱き、リグレーに指を振って合図すると景色が一変した。 街を走る水路、方々に設置された噴水。 色とりどりのネオンに彩られた煌びやかな街並み。 そして、街のシンボルと言っても過言ではない、巨大な観覧車。 「ライモン……シティ?」 「ご名答!」 いやはや一度遊びに来てみたかったんですよね、などど子供の様にはしゃぐ博士。 ライモンシティといえば言わずとしれたデートスポットではあるが……。 いや、だからといって、何で今!? 「折角ですから観覧車にでも乗りますか!」 「あ、ちょっと、アクロマ博士っ!!」 突然走り出した博士に手を引かれ、私たちは観覧車を目指した。 (2012/09/05) ← ×
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