「これが、キュレム……」

伝説のドラゴンポケモンを目の当たりにして、思わず驚嘆する。
アクロマ博士に連れられてキュレムが捕えられている巨大な装置の前にいた。

全身を冷気に包まれた竜。
その冷気は自分の体の一部すら凍らせてしまっている。
キュレムの放つその圧倒的存在感に気圧されてしまう。

キュレムはジャイアントホール呼ばれる
隕石が衝突することによってできた巨大な穴に潜んでいた恐ろしいポケモンだ。

あたりが闇に包まれるとキュレムは凍えるような冷たい風とともに現れ、
あたりを凍りつかせては人やポケモンを食ったと恐れられていた。
という言い伝えも残されている。





突然、船体が大きく揺れた。
その瞬間バランスを崩してしまい後ろに倒れそうになる。
思わず目をつぶるが背中が床にぶつかる堅い衝撃はなく、
代わりにしっかりとした腕が回されている感触があった。

目蓋を開くと、金色の目と視線がぶつかった。


「ナマエさん、大丈夫ですかっ?」

「あ、博士……すいません」

「いえいえ、ナマエさんがご無事なら」


博士そういって微笑むと、私をそっと立たせてくれた。


今、何が起こったのかというと、プラズマフリゲートが空中に浮かんだのだ。
プラズマ団の科学力の結晶であるこの帆船は、海上を進むだけでなく、
なんと空を飛ぶことができるのである。




黒い帆船は徐々に高度を上げてゆく。





「そろそろ、ですね」

そう言って歩き出した博士の後に続き、ワープパネルに乗って船の操縦室に移動する。

操縦室ではプラズマ団員がすでにそれぞれの位置について待機していた。
見晴らしの良いガラス窓には星空、そして闇色に染まったおだやかな海。

博士は少し高い位置に設置された操縦席に座ると、
タウンマップの映っていた画面を切り替え、キュレムの捕えられているフロアの映像を映し出した。
装置の前でせわしなく動き回っている科学者達。



「見ていて下さい」

博士がそう言うと、プラズマ団員に指示を出した。
画面の中の科学者達が機械を操作すると、キュレムは苦しそうな声を上げた。
どうやらキュレムのエネルギーを利用して何かするらしい。


アクロマさん、OKです。団員のその声に博士が頷くと、
カウントダウンが始まった。

5、4、3、2、1……発射! 団員の合図と共に、
プラズマフリゲートの主砲から放たれた氷のミサイルは一瞬にして海を凍らせた。
氷の柱が打ち込まれた周囲50メートルが氷漬けになっている。



「成功ですっ!」


博士がそう言って操縦席から立ち上がり、階段を下りる。
アクロマさん、やりましたね。と、みるみるうちに
プラズマ団員が博士の周りに集まり、口々に賞賛の辞を述べ、手を打った。
博士はその真ん中で、成功の喜びを分かち合っている。


私はその人だかりに交わることなく、
ただ、画面に映ったどこか寂しそうなキュレムを見ていた。






(2012/09/02)




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