夜空に右手をかざしたかと思うと、
彼は手を開いたままゆっくりと左右に振った。
まるで遠くにいる誰かに、手を振って合図するように。
手のひらそのような往復を繰り返した後、
その軌道の終点で突然閉じ、それきり止まった。
何かを掴み取ったようだった。


「お手を拝借」


呆気にとられている私をよそに、彼は私の手を左手で引いて、
その手のひらの上に右手をそっと重ねた。
何か小さな粒々が手の神経を刺激する。


「何ですか、これ」

「星でございます」

「星?」


彼が白手袋に包まれた手をどけると、私の手のひらには赤や黄色、
その他色とりどりの少しとげとげした砂糖菓子が五、六個転がっていた。


「金平糖」

「ご名答。流石にあなた様は騙されませんか」





「こうするとよく、クダリは喜んだものです」


彼は私の手をそっと放して、腰のあたりで、後ろ手に手を組んだ。


「クダリが星を捕りたいだなんて言って聞かなくて、
虫取網まで持ち出したものですから、
苦肉の策にと考え出したのでございます」


彼の目には昔の景色が映っているのだろう。
口は相変わらず上向きに弧を描いていたが、
目はとても優しい色をしていた。


「微笑ましいですね」


と笑うと、「昔の事ですから」と帽子を深く被り直した。
彼の頬が、少し色づいていたように思う。
彼は何か恥ずかしいことや嬉しいことがあったりすと、この仕草をする。
本人はカモフラージュしているつもりなのだろうが、
彼の行動をよくよく観察すると容易に分かることであり、
また逆にカモフラージュどころか、
こちらとしては彼の感情の機微が大変分かりやすくなるのだ。

手のひらに乗った金平糖を一粒摘み、口の中へ入れた。
舌で転がすと、やさしい甘さが広がる。


「美味しい、星が甘いなんて初めて知りました」

「それはそれは」






(2011.03.01)






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