シングルトレインを、降りる。
ああ、ノボリってばもうちょい手加減してくれたっていいのに。
私をホームに置き去りにして、列車はまた走り出す。

と、そんな勝負に負けて気分最悪の私に、後ろから声を掛けてくる奴が。


「ナマエ、元気?」
「元気じゃな「ぼくは元気、ぜんぜん元気!」
「……クダリ」
「そう、ぼくクダリ」


振り向くとそこには白い車掌。
ニコニコニコニコ楽しそう。
なんでそんなにいっつも笑ってられるんだ。
なんだこの、私と彼の間の温度差。5℃は違う。


「なんでこんな所に居るの」
「ここはギアステーション。ぼくが居るのは当然」
「いや、そうじゃなくてね、サブウェイマスターともあろうお方が
こんな所うろついてていいのかって」


全く職務怠慢もいい所だ。黒い相棒の気が知れない。


「ノボリに負けたんだ」
「まぁ、そうだけど……って私の質問は無視ですか」
「ん?きみ、ぼくに何か質問したっけ」
「いや、もういい。忘れて」


出口に向かって歩き出すと、
森のリングマさんよろしく、あとからついてくる。
すたこらさっさと逃げ出してやろうか。


「ねぇねぇ、ノボリ強かった?」
「ああ、強かったよ。強かったから負けたの」
「ふーん、きみ負けたんだ」
「何を今知ったみたいに言ってんのよ。
……あー、あなたと居ると疲れる」
「それよく言われる」
「でしょうね。ということで今日は帰ります。さようなら」


バイバイさよならまた明日。
いや明日また会うのはちと辛いな。休みが欲しい。

なんかさっきのバトルに追い討ちをかけるかのように、
今のでエネルギー全部持ってかれた気がする。
よし、今日は帰って寝よう。


「待って待って」
手首をぐいっと掴まれる。


「な、何」
「ぼくとマルチに乗ろう」
「は?今、何て」
「だからさ、マルチに乗るの!きみとぼくで。嫌?」
「嫌とか嫌じゃないとかそういう以前に
サブウェイマスターがそんな「嫌じゃないんだね!」


全く、白い車掌の耳は大変都合良くできているらしい。
お願いだから少しは私の話も聞いてくれよ。


「今日は特別、ナマエとクダリの二両編成!
さっ!ノボリをボコボコにしに出発進行ーッ!!」


振りほどこうにも彼の白手袋に包まれた大きな手が
がっちりと私を掴んで離さなかった。

あ、これ勝負始まる前に二人ともノボリに叱られるな、と思いながら。
でもちょっと嬉しかったのも事実。





(2011.03.01)





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