「それでね、ジュンったら……」


コウキ、ジュンだっけ、彼女の話の中に度々出てくる。
知り合い、そして幼馴染。
両方癇に障るけど、せっかち君の方は特にずるい。
だって、昔のナマエを知ってて、今も彼女に近づいてるんだから。
ぼくは昔のナマエがどんな感じだったのか知らないし。

幼馴染=危険因子、すなわちぼくとナマエとの関係を
危うくする可能性のあるモノ。

ナマエは彼らの話をする時、とても楽しそうで、
嬉しそうで、幸せそうで……。

現に彼女が彼らの話をするという、ただそれだけで
ぼくの精神状態はとんでもなく乱されてる。
あーうるさい。うるさいうるさい。
胃のあたりがむかむかとする。
はらわたが煮えくり返るってこーゆーコト?

うるさいのなら、その口をふさいでしまえば良い。
彼女の後頭部へと手をまわし、半ば強引に引き寄せる。

んっ……

彼女から抗議とも取れる吐息が漏れたが、そんなことはお構い無しだ。
黙って、おねがいだよ、黙って。
黙って。ねー、ぼくだけを見てよ、ナマエ。

唇を離し、彼女を見据える。
まるで溺れかけた人みたいに呼吸を乱してる。あー、手加減できなかったみたい。


「ぼくの前で他の人の話をするのは止めてくれないかなー。
 不愉快、なんだよねー」


ナマエの関心が誰かに向いているというだけで。


「ネジキ。
もしかして、焼きもち……」
「思い上がらないで下さい」


その声色は、思ったよりも冷たく響いた。
彼女の瞳が怯えとも悲しみとも取れる色に染まる。
ぼくはその言葉を彼女に向けたのか、もしくは他の誰かか、あるいは。
あるいは、ぼく自身か。

全く、思い上がりもいいところだ。
ぼくはナマエを一体どうしたいというのだ。
苛立ちを向けるべきは少なくとも彼女ではないじゃないか。


「ごめん」


うつむき加減で、唇をかみ締めているナマエ。
こころなしか目が潤んでいる。

あれ、ナマエってこんなに傷つきやすかったっけ。
ナマエってなんかこう、ぼくに対してもっと挑戦的というか挑発的というか
いつもまっすぐ見詰めるような感じじゃあなかったの?


「どーして、きみが謝るんですかー」うつむいた彼女の頭をやさしく撫でてやる。
やわらかな髪の感触。
ぼくの発言はこうも彼女に影響を与えられるものなのか。
そう思うと、少し気分が良くなった。


「ぼくはなーんにも、怒ってなんか無いですよー」


嘘だ。なんにもだなんてコトは無い。
さっきまでどうしようもなく、どうしようもなく、苛立っていたさ。


「本当?」
そんなぼくを、信じきった目。
ナマエの目。


「はい」
さっきまでは……。でも今は。


「本当に本当?」
「本当に本当ですよー」


ナマエの表情がぱぁっと華やぐ。ああ、彼女という存在は。

「ネジキ、大好きだよ。」

ナマエはそういってぼくに微笑んで見せた。







(2011.03.01)





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