「ナマエ、何読んでるの?」
「何でもいいでしょ」


視界から活字が消える。
後ろに振り返り、緑の彼を見上げた。
案の定、本は既にその手の中に。


「か、返してよ」
「へぇ『ポケモンソムリエへの道』か。
ナマエ、ポケモンソムリエールになるつもりかい?」
「そんなつもりはない」


私には詩の才能なんてないし、
人のポケモンをあーだのこーだの批評したり、
そういうことは好きではない。


「じゃあ、どうして読んでるの」
「気が向いただけ。返して」


手を伸ばし本に触れるぎりぎりのところでひょいとかわされる。


「嫌だよ。どんな行動にも理由はあるはずだ。
教えてくれたら返すよ」


彼は踊るように軽やかなステップを踏み、私から逃れる。
あと少しの所で私の手は空気を掴むばかりだ。
完全にからかわれている。
手持ち無沙汰だった彼にとって、私は格好のカモネギといったところか。

「いじわる」
「僕が?そうかな、意地が悪いのは
 教えてくれないナマエの方じゃないのかな」こんな時にでも彼の微笑みは爽やかだ。
にやつくでもなく、ただ柔らかく、にっこりとする。


「あなたの職業がどんなのか知りたかったの……返して」


私は観念した。もういいよ。
何でもいいから本返してくれ。
それ実は私のじゃないんだ。
隣町のシッポウ博物館から借りてるんだよ。


「僕嬉しいよ。ナマエが僕に関心を持ってくれて」
「あなたにじゃない。あなたの職業」
「どっちにしろ僕に直接聞いた方が早いだろ?
何でも聞いてくれ。
ナマエになら手取り足取り丁寧に教えてあげるよ」


「だまれ」


先ほどのやり取りがくやしかったので、
差し出された本をひっ掴むと、そのまま奴の頭を殴ってやった。
変なうめき声が聞こえたけど角じゃないから大丈夫、きっと。

あ、そういえばこの本、借り物だっけ。





(2011.03.01)





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