挑戦者との久しぶりの対戦を終え、自室に戻ろうと
白く長く続く廊下を歩いているところでぼくは異変に気がついた。

――ネジキっ、やめてっ

ナマエの悩ましい声が壁を隔てて聞こえてくる。
しかもぼくの名前を呼んでいる……?
一体何をしているんだ。

慣れた手つきで暗証番号を入力しドアのロックを解除すると、
部屋には特にコレといって変わった様子も無く、
ソファーに座ってくつろいでいるナマエと、その横でロトムが浮かんでいただけだった。

「あ、ネジキ。おかえり」
「何、してたんですかー?」
「ネジキと遊んでた」

は? と聞き返すが彼女は微笑むばかりだ。

「あぁ、この子のニックネーム、ネジキにしたの」
「……え?」
「いや、ロトムの顔見てたらネジキ思いだしちゃってさ」

オレンジ色の物体はニシシとギザギザの歯を見せて笑った。

「それでニックネームをぼくの名前にしたんですかー?」

うん、そう。だなんて悪びれる様子もない。
しかも、「目元とかそっくりじゃない?
あと何か企んでそうなとことかさ!」と彼女はさらに続けた。

先ほどのやり取りについて尋ねてみると、
ロトムとじゃれあっていたらおもしろ半分に“でんじは”を仕掛けてきたとのこと。
それを半ばまひ状態にされながらもトレーナーに対する態度として
度が過ぎていると判断し、注意していただけらしい。

「ふーん、そーですかー」

彼女に近づく。

「な、何?」
「ねー、ナマエー。こんな勝手なコトして許されると思ってるのー?」
「え? 何かまずかった?」

えー、とてもまずかったですよ。遊んでいたとはいえ、
あんな風に名前を呼ばれて、理性を保っていられる訳が無い。
おかげで何かのスイッチが入ってしまったようだ。

近くに転がっていたモンスターボールの開閉ボタンを押してロトムをボールに戻す。
きみがぼくの名前を呼ぶのはぼくの為だけでいい。
ああ、先ほどの甘い声がもう一度聞きたい。



「ねー、ナマエと××や×××がしたいなー」
と、卑猥な言葉を並べ立てると、「最低っ!」と平手打ち。
頬に走る痛み。あー、痛いなぁ。
なんだか苛々してきちゃった。

「ナマエ。きみのそーゆー態度、逆効果だって、
 何回言ったら分かるのかなー?」
「逆効果?」
「そー。ぎゃくこーか。」

抗われれば抗わられる程興奮する。
手懐けるのが難しい方が征服欲も満たされるというもの。
押さえつけようと手首を掴むと「バカッ!変態!!」とすねを蹴られた。
それでもぼくがニヤリと笑うと彼女は怪訝そうな顔をして言った。

「Mなの?」
「ぼくはサディストですがー」

サディストとは相手を痛めつけて性的快楽を得る人のこと。
つまりぼく。掴んでいた手首をより強く締め上げると、
逃れようともがいていた彼女が悔しそうな声を上げた。あーやばい。
普段は挑戦的なその顔つきが、羞恥と苦悶に歪む様を思い浮かべただけでぞくぞくとする。


と、いよいよこれからだというときに呼び出し音が鳴った。
なんてこった。こんなときに挑戦者だなんて。
……全く、今日は挑戦者がやけに多い日だな。

手首締め上げていた力を緩めそっと放すと、強張っていた彼女の力が
ふっと抜けるのが分かった。どんだけ怯えてたんですか。

「興醒めです」

見下ろす彼女は半泣きで、それがまた何ともそそられた。
ぼくが拘束の手を緩めたというのに、彼女の腕は胸の前で防御の姿勢を取ったまま固まっている。

「なーんて、言うと思いましたかー?」

彼女の肉体が再び緊張に包まれたのが手に取るように分かった。
ふふん、可愛い。

「これで終わるだなんて思わないで下さいねー」とだけ言い残し、部屋を去る。


ナマエは恐らく逃げないだろう。
逃げればさらに酷いコトをされると、彼女でもそのくらい分かるだろうから。
ぼくの帰りを恐怖に縛られながら待っているんだろうね。
まー逃げられたら逃げられたでもっと酷いコトするのも、それはそれで楽しめそうだ。

この調子じゃ手加減出来そうにないなー。
バトルもその後も。





(2011/10/24)





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