がごん、と音がしてミックスオレが出てきた。

あつい。こうも暑いと喉が渇くものである。
熱のこもった身体を冷やそうと、ナマエは自動販売機に手を伸ばした。

缶を開けて冷たいミックスオレ喉に流し込むと、生き返る心地がした。
うん、おいしい。




「ジーーーー!」

その声に驚いて、思わず缶を滑り落としそうになる。


「ネ、ネジキっ!」

喉の渇きを潤すことに意識が向いていて、彼が近づいていたことに全く気がつけなかった……
ということと、まさかこんなところで、あの超インドアな彼に出くわすとも思わなかったからだ。


「そんなに驚かなくてもいーじゃないですかー」

と言いつつも、彼は私のミックスオレを狙っているのか、そこから視線を外さない。


「欲しいなら自分で買ったら?」

「ぼくはソレが欲しいです」

と、彼が指さしたのはやはり私の持っている缶だった。



「もう、ちょっとしか残ってないよ」

言い終わるか言い終わらないかの時点で、彼が私の手から缶をそっとかすめ取った。


「あ、」

みるみるうちに残っていたジュースは飲み干されてしまう。
全て飲み終わったのか、缶から離れた潤いをおび、つやのある唇はそのまま言葉を紡いだ。


「間接キッス」


一体何故そのタイミングで改めてその言葉を発したのかは定かではないが、
全く何の意識もせずに缶を渡してしまった私に、その事実を認識させるには十分で、
彼から目をそらしてしまう。


「どーしたんですかー?」

じぃと、顔を覗き込むように見られて、焦る。


「な、なんでもない」

とてもじゃないけれど、視線を合わせ続けられなかったので、また目をそらす。


「まさかー、間接キスくらいでー……」

「そ、そんな訳ないでしょう」

図星だった。狙って言ったのかこいつ。



「ナマエー、きみとぼくはキス以上のコトも済ませた仲でしょー?」

「う、うるさいなぁ!」

熱が冷えるどころが上がっただろ馬鹿やろう!






すると、どこからともなく『かき氷〜、かき氷はいりませんかァ〜』
と威勢のいい声が耳に飛び込んできた。


「ねぇ、ネジキ。かき氷おごりなさいよ。
貴方、私のミックスオレ飲んだでしょう?」

「しょーがないなー」

「ロメ味ね!」



大勢の人が集まるバトルフロンティアには季節を問わず、
様々な屋台が出ているが、特に夏場は氷菓子の屋台が多い。

暑い日差しの中、こおりタイプのポケモン達が店を手伝っている。
そのせいか、店の周りはクーラーも付けていないのに涼しく感じた。


「カイス味だって! おいしそう」

「さっきロメ味って言ってたじゃないですかー」

「だってカイス味売ってるの見たの、初めてだもの」



ロメ、カイス、という並びに、ひときわ真っ赤なシロップが置いてあった。


「マトマ味か……辛そうだなぁ。というか売れるの、これ」

「ポケモンも食べるんじゃないですかー」

「あぁ、なるほどね」


店のそばではパチリスとそのトレーナーが仲良くかき氷を食べていた。
パチリスがかき氷を頬張る度に、もそもそと口を動かしているのがなんとも愛らしい。





結局、ナマエはカイス味のかき氷の入ったカップを持ち、
ネジキはロメ味のカップを持って近くのベンチに並んで座っていた。

スプーンですくって一口食べると、心地よい甘さと冷たさが広がった。
カップには一匹ずつポケモンがえがかれており、ナマエのカップにはグレイシアが、
ネジキのカップにはユキカブリがプリントされていた。


「ねー、ナマエー」

「何、」とネジキの方に振り向くと、
 餌を待つ雛鳥よろしく、口を開けて待っていた。

「……え」

なんですか。それはもしかしてもしかしなくても。


「あーん、ってして下さい」

「なっ」

「あーん、ってして下さい」


もはや脅迫だった。
仕方なくスプーンですくって口に放り込む。
飲み込んだなと思ったら、彼は満足げにこう言った。


「よく出来ました」


その言い方がやけに色っぽかったのでまた体温が上がる。
ぱっと、反対の向きに座り直す。
持て余した熱を下げようとかき氷を口に運ぶと「間接キッス」と奴はまた呟いて、
私はかき氷のカップを落としそうになった。




(2011.09.06)








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