デパートから帰ろ思たらこの雨や。
通り雨かと思て待ってたら全然止まへんし。

家まで走ろかな。いやぁ、でもわい足にも体力にも自信無いしなぁ。
いくら足早い奴でもこの雨やったら濡れるか。

ああ、そや、家に電話して迎えに……って、
今日はまいこはんの集まりかなんかでオカンは出て行くし、
妹もそれについて行ってしもてて家に誰もおらんのやった。

傘買ってもええねんけどなぁ。
……ビニール傘でも500円するよなぁ。
大体傘買うほどの距離かぁ?
まぁ、通り雨なんやったらあともう少し待っとったら止むやろし……。

見上げる空は灰色一色。

雨が降っているときは出不精のマサキはまず外出をしない。
特別な用事でもない限りは。
雨の日は室内から窓の外の通行人眺めたりして『大変そうやなぁ』などど、
他人事な感想を述べるのだ。




「マサキ……雨宿りしてるの?」と、突然呼びかける声が。

「ああ、そや。雨止まへんから買うて帰るかどうか悩んでる……
 ってナマエ。」


声の主は青色の傘をさして佇む女性で、頭の中でこの状況をどうしようかと
ぐるぐる考えていた彼は、ややあって彼女と目が合った。


「何、その反応」


すぐに気がついて貰えなかったことに腹を立てたのか
ナマエは少しむすっとした表情になった。


「傘、入れてあげようかと思ったのに」


ぽつり、彼女が呟くように言った。
声色から残念さがうかがえる。


「えっ。ほんま!
 流石やなぁ〜。よっ、大統領!!」


なんとか彼女の機嫌を取ろうと精一杯の笑顔でマサキはそう言った。
調子のいい人。そう思いながらもナマエはマサキを傘の中へと招く。

ナマエよりいくらか背の高いマサキが傘を受け取って差した。
その代わりに、ナマエはマサキの持っていた荷物を半分だけ持った。




「いやぁ、ほんま助かったわぁ〜。
 買いもんしてて今から帰ろっかなー思たらザーって雨降ってきてなぁ、
 そやけど、わい傘忘れてしもてやな、困り果てとったちゅー訳や」


マサキはそう言いながらのうてんきに笑う。
ナマエはいまさらながらマサキを傘の中に入れてしまった
自分に苦笑しながら、でも嫌な気はしないな、と思った。

雨足はより一層強く、やかましくなっていく。
足元はすでに雨水で濡れてしまっていた。


「それにしてもすごい雨やでぇ」

「うん。私も突然雨降ってきたから困っちゃった」

「でも傘持ってはったやん」

「育て屋さんが貸してくれたの」

「君、育て屋行った帰りやったんか」

「うん。預けてた子の様子を見に行ってたの。
 元気そうで良かったわ」

「おぉ、そら良かった」



コガネの大通りも雨が降っているせいか、いつもより人が少ない。
傘の表面を雨水が跳ねる音、濡れたコンクリートを歩く音。


「マサキ、何買たの?」

「んー、ポケモンフーズとか進化の石とか……まぁ、そんなもんやな」

「イーブイの達の為?」

「そや、よう分かったな」


「マサキ、イーブイ好きだもんね」

「まぁな。けど、わいはポケモンやったら何でも好きやけどなぁ」


幸せそうに笑うマサキ。
ナマエはその横顔をちらと見て、すぐに目線を正面に戻した。
何か、彼に対して胸の高鳴りのようなものを感じてしまったのだ。
マサキに……まさか。



「♪あーめあーめ ふーれふーれ かーあさーんがー」

マサキは大抵の人なら知っている童謡を、よく通る声で高らかに歌い上げる。



「な、何、急に」

「雨降ってたら歌いたくならへんか? この歌」

「そ、そうかな」

「ほら、ナマエも一緒に歌うでぇ!」

「それはそうと、マサキ。……着いたわよ」


いつのまにか彼の家の前に到着していたようだ。


「あ、ほんまや。
 ありがとうな、ナマエ。ほんま助かったわ」


にっこり。あ、また笑った。
そう思いながら、ナマエは持っていた荷物をマサキに返して傘を受け取る。




「じゃあ、私はこれで」

「ほなな」


マサキが手を振って、ナマエもそれに答えた。
くるりと方向転換して降りしきる雨の中、歩き出す。





「♪あーめあーめ ふーれふーれ」

小さな歌声でそう口ずさみながら、ナマエはポケモンセンターへと向かっていった。





(2011.03.27)





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