「ぼくクダリ。サブウェイマスターをしてる。
 ねぇねぇ聞いてよ、ぼくね、ノボリがこの前アールナインで買い物してるの見ちゃったんだぁ。
 偶然だからね!偶然!! べっ、別に跡をつけたとかそんなんじゃないんだからね!
 キラキラしたネックレス。すっごく高そうなヤツ!!
 誰にあげるのかなんて、ノボリのことだから決まってんじゃん!
 でね、ぼく……良いこと思いついちゃったんだっ!」


懐から鍵を取り出し、ノボリのロッカーを開け、ごそごそと探るクダリ。
と、彼の手には綺麗にラッピングされたピンク色の小さな箱が握られていた。
してやったりと、笑う。


「ね、ほらビンゴ。
 これをぼくが用意したスペシャルな箱とすり替えちゃうよ!」


彼はロッカーから取り出した箱と、自分が隠し持っていた箱を入れ替えた。
二つの箱は全くと言っていい程そっくりで区別がつかない。


「ぼくがすり替えた箱の中身?
 それはひ・み・つ☆」


クダリが一指し指を口元に当て、軽くウインクする。
と、ドンドンとドアを叩く音がする。急かすように。


『ボスー。ダブルでお客様がお待ちですよ。
 さっきから呼び出しのアナウンス流れてますけど。
 あ、あと独り言うるさいです』

「あ、きみぃ。ノボリに言ったりしたら
 きみの首ちょんぎっちゃうからね!(物理的な意味で)」

『……は、はい(ノボリさん可哀想に)』





そんなこととはつゆ知らず、数時間後、
ノボリは例の箱を大事そうに手に持ってレストランの席に着いていた。
彼の目の前には一人の女性。


――この日の為に何度も何度もシミュレーションを行いました。
今日こそ!今日こそナマエに告白するのでございます!!
レストランで食事をし、美味しい物を食べ、
気がゆるんだ所ですかさずプレゼントを渡す!
成功しますとも、ええ、成功しないはずが無い!!
なにしろ計画を練りに練って――


「ねぇ、そういえば話って何?」

「ええ、そうでございましたね。
 実は今日、あなた様にお渡ししたい物がございまして」


ノボリはおもむろに小箱を取り出し、ナマエに手渡す。


「えっ、何だろう。開けてもいい?」

「ええ、どうぞ。
 あなた様に似合うと思いまして選んだのでございますよ」


ナマエがするすると箱に掛けられたリボンを解いていく。
その様子を固唾をのんで見守るノボリ。


「……うおっ。
 ……なに……ノボリってこんな趣味だったの……」


箱の中には紫色のとても薄い布で作られた、面積の小さい女性物の下着が。
ナマエの顔がひきつっている。二人の間に気まずい空気が流れた。


「な、何かの間違いで御座いますっ!」

「間違い? 何をどう間違えたら……!
 ……ごめん、今日はもう帰るよ」

荷物をまとめて、ナマエが席を立つ。


「ナマエっ、待って下さいましーー!」というノボリの叫びも空しく、
彼女はさっさと帰ってしまった。






そんなことがあった次の日。


「クダリ……」

朝、ノボリはイライラした様子で仁王立ちをし、クダリをじっと待ち構えていた。
苦虫を噛み潰したような顔で、出勤したばかりのクダリをキッと睨み付けている。
ちいさくなるクダリ。


「や、やぁおはようっ!
 あれあれ、朝からムスッとしてノボリん怒ってる?
 あ、でもそれは前からそういう顔「クダリ!!」

ノボリが吼えると、クダリはその大きな体をいっそう縮こませ震わせた。


「な、何。ぼ、ぼく何もしてないよ?
 ナマエへのプレゼントをセクシーな下着にすり替えたりしてないよ」

と、つらつらと自白してしまったことに気がつき、
はっと両手で口を押さえるクダリ。


「やはりあなたでしたか…」

ノボリがゆっくりと近づいてくる。
クダリも逃げようと試みるのだが、足がすくんでしまって一歩も動けない。
くろいまなざし。


「ハハッ、ナマエ気に入ってくれたかな?」

「ええ、とても喜んで下さいましたよっ」


黒い車掌が白い車掌のみぞおちめがけ勢いよく蹴り上げた。
その衝撃で白い車掌は吹っ飛び、地面に思い切り叩きつけられる。


「げほっ、げほっ」


体中に走る痛み。胃の内容物が出そうになるがそんなことはお構いなしだ。
何とか立ち上がろうとするクダリの頭を、
そうはさせないとノボリは黒のおでこ靴でぐりぐりと踏みつける。


「さて、わたくしもあなたに丁重に礼を申し上げなくては」

ノボリは臨戦体勢とばかりに指をぽきり、ぽきりと鳴らした。


「ゆ、ゆるしてぇええええ」

「許しませんっ!!」





ノボリがクダリを散々痛めつけた後、二人でナマエの元へ謝りに行って、
なんとか誤解は解けたそうな。





(2011.03.27)





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