「ナマエーー!」


サブウェイマスターの白い方が片手をぶんぶん振っていた。
恥ずかしいから止めてそれ本気で。




――それはシッポウシティのカフェ ソーコで一服しようと足を進めている時だった。

テラス席に座っていた彼らを目で捉えたのは私の方が早く、
気づかれる前に逃げ出そうとした。

おいおい、なんでこんな所にいるんだよ気狂い車掌。
美しいアコーディオンの音色に耳を傾けながら、
カフェ ソーコでゆっくりとした雰囲気を楽しもうと思っていたのに。

彼らに会ってしまえば騒がしくなることは必至。
そんなの台無しじゃないか。


……なんてことを考えているうちに、
サブウェイマスターの白い方に見つかってしまった、という訳だ――




バニラ、チョコ、イチゴ……山積みのアイスに大量のホイップクリーム。
トッピングとして色とりどりのフルーツ、
そしてその上にチョコソースとフルーツソースが大量にかかっていた。
ご丁寧にポッキーまで刺さってやがる。


「なにこれ」

「クダリスペシャル!」

クダリが目をキラキラ輝かせながら言った。
ところでなんだそのハルカデリシャスみたいな名前。
というかそんなもの食べて腹は下さないのか、クダリよ。


「クダリがお店の方に無理を言って、
パフェのメニューを全て混ぜていただいたのでございます」

と、ノボリが丁寧に説明してくれた。

なるほど、どうりでごちゃごちゃしている訳だ。


そんなやり取りをしている間に、店員さんがカプチーノを運んできてくれた。






クダリが「あーん」と自分のスプーンにホイップクリームを乗っけて差し出してきた。
私はそれを無視してカプチーノに添えられていた自分のスプーンで
パフェをすくって食べた。クダリが若干残念そうな顔をしたが気にしないぞ。


「ねぇねぇ美味しいでしょ!」

「うん、美味しい」

「でしょでしょ!」


クダリがにっこりと笑う。



「ナマエ、コーヒーはいりませんか?」

「え、でも今飲んでるのカプチーノ……」


ずいっと目の前にブラックの入ったコーヒーのカップを差し出されては
受け取る他無かった。
私がそのままカップに口をつけようとしたそのとき

「ピピーッ!ストップ、ストップ!!」

クダリがそう叫び、私の動きを制した。


「っえ」

「ナマエ、それじゃ間接キスになっちゃう。
そんなのぼく許さないよ」

「あ」

クダリに言われるまで気付かなかった。
間接キス……言われてみればそうなるのか。

今さらノボリにコーヒーを返す訳にもいかず、
クダリの手前間接キスをする訳にもいかず。
私はスープを飲む時のようにスプーンでコーヒーをすくって飲んだ。


苦い。というか砂糖すら入ってない正真正銘のブラックだった。
パフェで甘ったるくなった口を苦さで中和してくれたので
丁度良かったかもしれない、が。


「美味しい」

「そうでしょう」




ゆっくりとした雰囲気を楽しもうと思っていたのに、なぁ。
やはり台無しだった。
ああでも、アコーディオンかっこいいなぁ。
何て曲なんだろう。
そしてカフェ ソーコのカプチーノは格別である。


「で、ぼく、前からきみに聞きたかったんだけど」

「わたくしもあなた様にかねがねお尋ね申し上げたいことが」


同じ二つの顔が私を見つめる。
異なっているのは口元、向かって左は笑っていて、向かって右は笑っていない。
ただどちらも目がとても真剣だった。





「ナマエはどっちが好きなの!」

「ナマエはどちらがご贔屓ですか!」


「え、カプチーノ」

私がそう答えた瞬間、ノボリが頭を抱えた。
クダリまで笑顔が引きつっていた。
え、私なんか変なこと言った?






(2011.03.01)





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