悲しみの先に

「どうして…っ会いたい気持ちが捨てられねぇんだよ」

「ユウッ無事だったんだね!」

「アル…」

「ユウ会えて嬉しいんだけど僕キミを殺さなきゃ」

「ごめん…俺は生きたいおまえを破壊してでも……!」

「アルマと一緒に居たいなら、俺はお前を置いていく
 …俺と一緒に居たいなら…来い」

「……っゆうに…と…いっしょ……っ」

あの時差し伸べられた手を無我夢中で掴んだ
二度と離さないように、強く…強く。


〜悲しみの先に〜


ー9年後
黒の教団食堂ー

「ユウ兄ぃー!!」

長い長い綺麗な黒い髪につり上がった黒い瞳。
見えた途端大声をあげ手を千切れそうなくらいぶんぶんと振り、駆け寄る。

「ヒロインか」

「“ヒロインか”じゃないよ!また蕎麦ばっか食べてぇっ!!」

「悪いかよ」

しれっと言うユウに悪くないけどーーーーー…と返し、隣りに座った。

“第二使徒計画”
被験体「Alma」の暴走、亜・第六研究所と呼ばれていたそこにいた殆どの人を亡き者とし“第二使徒計画”は凍結した。
同じ被験体であった“2人”の心に大きな傷を残して…ーーーー

その2人が、当時9才だった「Yu」と5才だった「Heroine」だ。
アルマ、ユウ…そしてヒロイン。
ユウが目覚めてからの時間は1年にも満たないけれど、
ーーーそれでも3人は兄妹のように
…アルマとユウはともだちのように
仲が良いように見えた……ーーーーーーーー

そしておきた悲劇。
目の前に広がるのは見渡す限りの赤、赤、赤。
あんなに仲良かった2人が(常にユウ兄は一方的にキレてた気もするけど…っ)
破壊(ころ)しあうのをみてたら涙が止めどなく溢れて溢れて止まらなかった。

“生きるためにはしょうがなかった”

なんて言いたくないけど…
でも、そうでも言わないと…何か理由がないと簡単に挫けてしまいそうなくらい2人ともボロボロだったんだ…ーーーーーー


「今はそんな影もなく悪態ばっか吐いてるけどねー…」

「なんか言ったか?」

「んにゃ。別に?」

声に出てたらしく、問われて驚くが、何もなかった風に返す。
実際2人にとっては忘れたい(忘れたくはないけど…っ)過去なのだから。
触れないほうがいいに決まっている。
ただでさえユウ兄は自分が手を下したのだから、私以上に傷ついているだろう。

「ごちそーさまでした」

ぱちんと手を合わし礼をして椅子から立ち上がると待っていてくれたのか隣のユウ兄も一緒に立ち上がる。
そういうユウ兄の行動一つ一つが
優しくて、
嬉しくて、
好きだなって思う。

“兄妹として”じゃなくて好きっていうのに気づいたのは最近。
想いを伝えても迷惑だろうって気持ちと、言うことによって仲良くできなくなるかもって思うと今のまま兄妹みたいいな関係でいい。
でも、少しでも多く一緒に居たいって思う訳で…
2人とも任務のない日は私がユウ兄の部屋に押しかける。
最初はうざがってたユウ兄も、今は何も言わず当たり前みたいに迎えてくれる。

ガチャッ…
ギ…ギィィィィ…

鈍い音を響かせ、ドアが開けられる。

「ただいまー」

「“ただいま”ってお前の部屋かよ」

殺風景な部屋に唯一あるベッドに腰掛け、そのままごろんと寝転ぶ。
しばらくすると、ギシ…と音を鳴らせ隣にユウ兄が座った。

「ごはん…たべたからねむくなってきちゃった………」

うとうとしながら呟くと寝んなよという声が聞こえた気もするが眠さに勝てず、そのまま夢の中へ堕ちていった…ーーーー




「寝んなよって言ったのに寝てやがるし」

六幻の手入れをしていると大人しく寝転がってるこいつ。
やけに静かなのを不思議に思い隣をみるとすうすうと規則的なオトを立て寝てしまっていた。

「襲われても知らねぇぞ」

そう呟き、無防備に眠る彼女をちゃんとベッドに寝かせ布団をかける。

「ん…ゆうに…」

起こしてしまったかと思いみると幸せそうな顔をして寝てる。

「寝言…か」

髪をかきあげ頬をなでると気持よさそうに擦り寄ってくる。
ちゅっとリップ音を立て触れるだけのキスをし手を放して身元に唇を寄せて低い声で、囁く。

「はやく俺のものになれよ」











長い長い髪。

「ユウにー…?」

声に気付きヒロインの方をみて、やっと起きたかという。
明るかったはずの空が綺麗なオレンジに染まってるのが見えた。

「今何時ー…?」

「5時だ」

寝過ぎたと思い、思い躰を起こしユウの隣にすわる。

「お前さ、あんだけ無防備に寝て襲われたらどーすんだよ」

伸びをしてると急に問われ、驚きながらも返事を返す。

「えー?だってユウ兄はそんなことしないでしょー??」

その言葉にユウは良心がちくりと痛んだが、でも、と続けられた言葉に耳を傾ける。

「ユウ兄だったらべつにいいもん…」

「は?」

冗談だろ?
そう思いヒロインのほうをみると真っ赤になってふにゃっと笑った。

「なんて、ね?冗談に決まってんじゃん」

信じた?と笑うヒロインはさらに真っ赤になって今にも泣きそうで…

「!?ユウ兄……!!?」

両頬を両手でやさしく覆うと驚いたヒロインの顔。
優しく、触れるだけのキスをして強く抱き締めるとこらえるような泣き声。

「ヒロイン?」

「…なの」

ぎゅっと背中をつかみ、紡ぎ出させるか細い声。

「すき…なの……っ
ユウ兄がす…」

ぐいっと顔を上に向け、唇をあわせ深く深く口付ける。

「…っふ…ユウに……っ」

「好きだ」

涙を指で拭い、想いを伝えると真っ赤な瞳をうるませ本当?と問うてくる。

「俺は9年前からお前のことがずっと好きだったよ」

左手で髪をなでると頬に柔らかい感触とちゅっというリップ音。
恥ずかしそうに首元に顔を埋め、強く抱きつくヒロインの耳元でもう誰にも渡さねぇと囁くと耳まで真っ赤にし、ぎゅうっとさらに強く抱きついてくる。

「愛してる」

もうこれ以上誰も失わないように。
大切だからこそ自分の手で護り抜いて。
誰よりも幸せにすると誓うよ。
悲しみの先には…
不幸の先には必ず幸福があると信じて…ーーーーーー



-END-










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