英国紳士的リアリズム
「おかえり、花礫!」
一瞬思考回路停止。なんでこいつが俺の家にいて、パンッという音とともに頭の上に乗っかった物はなんだ。ドアを開けた途端に見えたのは満面の笑みをこれでもかという程浮かべた平門だった。右手には花束、左手には使用済みクラッカー。とここで自分の頭の上に乗っているくるくるしたものがクラッカーだと分かった。
「なんでいんの…」
「花礫の生誕を一番に祝いたくてな」
「鍵渡したっけ」
「おめでとう」
花礫は肩に腕を回され自分の家だというようにまるで招待された客のように部屋に入った。部屋に入るといつもの落ち着いた感じとは正反対。飾り付けがされていてテーブルには大きなケーキが位置していた。
「どうだ?嬉しいだろう」
自身たっぷりに笑いながら言う平門に花礫は深いため息をついた。
「ほらこれをお前にやる。ちゃんと歳の数だけ本数は入れたからな」
そう言って渡されたのは薔薇の花束。ほんと、こいつ買う時とか恥ずかしくなかったのか?こっちはさっきまで自分の誕生日だということもすっかり忘れてたのに。
「頑張ったんだぞ?この計画を遂行するのは。お前に内緒で合鍵を作ったりな」
「合鍵って…誰がそんなこと許可したんだよ」
「お前が俺にスペアキーを渡さないのが悪い」
「ハ?そんなの言ってくれれば…」
スペアキーくらい渡したのに、といいかけて言葉を飲み込んだ。赤い花達の中でなんかがキラキラと光っているのが見えたからだ。ごみか?そう思って棘に気をつけて光るものを取り出した。
「気がついたか」
「…なにこれ」
「どこから見ても指輪だろう?」
いやこれが指輪だっていうことはさすがに分かるしと即座にツッコミを入れたが平門はあっさりと答えた。
「ペアリングだが?」
ペア…?女子とかがよく友達とか彼氏とかとやるあれか?まさか自分がそんなものをつける日が来るとは想像もしていなかった。だが現実には目の前で手を開き指に指輪をはめている平門、しかもその指輪は今俺の手の平に乗っているものと同じ。
「さあはめてやろう」
「ちょっと待てよ!誰がそんなのするー」
「嫌なのか?」
左腕をぐいっと掴まれ真っ直ぐの視線でそう言われた。視線をずらすことも叶わない。
「嫌、じゃねえけど…」
「ならいいな」
微笑んだ平門は手の平にあった指輪を取り、時間をかけて俺の左手の薬指にはめていった。キラキラと光るそれを見ていると無性に恥ずかしくなり、思わずうつ向いてしまう。
「照れてるのか?可愛らしいな」
「んなんじゃねーよ」
「プレゼントも渡し終えたしな。ケーキ、食べるだろう?」
素直にこくんと頷いてテーブルに向かい合って座った。そのあと蝋燭の火をふーっとして消せだとか食べさせあいっこするぞとか言われたけれど、こんなあたたかい誕生日は初めてだった。
「平門」
「ん?」
「…サンキュ」
歳の数の分だけの薔薇だとか、花束の中にペアリングを入れておくだとか、他人が聞いたら呆れてしまうようなことばっか。この薬指に光る指輪を見る度にこのことを思い出すのももしかしたら悪くはないかもしれない、ケーキを口に頬張りながら花礫は思った。
英国紳士的リアリズム
誕生日おめでとう花礫!甘くしようとしたんですけど…´`無駄に長くなった…
お題Largoさま