奏←音無←日向
▼奏←音無←日向<<日向のみ記憶ありの転生後。日向と奏が双子
「よぉー、音無!」
ばん、と、見る人が見ればイジメにも見える、そんなおかしな言動で、日向は俺の机を、力の限り叩いてみせた。
(…………)
しかしこれはもちろん、日向の俺に対するイジメではなく、ただ単純に、コイツの普段からの言動が乱雑だから、という、実に単純明解なものである。
まぁつまり、結果的に俺が何を言いたかったかと言えば。
「……日向、とりあえず落ち着いてくれ」
それだけの話である。
「はぁー?何だそりゃ?朝からいっきなりテンション低いなー、音無は!」
それはお前のテンションがおかしすぎるだけだ
と。
言えたらどんなに楽なことか。
しかしコイツは仮にも友達……というよりは、高校に入学して二日目、何よりも誰よりも俺に懐いてくれている人物。
日向の元々の懐っこさや明るさもあって、俺は到底、コイツを無下には出来そうになかった。
「……ところで日向」
俺は肩に掛けていた鞄を机の上に置きながら、教室の中を小さく見渡す。
「ん?」
やがて目の合った日向に、首を傾げると。
「今日はあの子――奏とかいう子は、一緒じゃないのか?」
何気なしに、そう問いた。
「……あぁ、奏?」
しかし、そう言った日向の、笑顔が止まる。
俺は何か、言っては悪いことを言ってしまったのか。
そう直感的に感じた俺が、慌てて謝ろうと口を開くものの、日向はそんな俺を知ってか知らずか、また、いつものように、二カリと、満面の笑みを向けた。
「アイツは今、隣りのクラスにいんよ。何でもゆり?とかいうダチが出来たとかで……あ、なんだ、音無?もしかしてオマエ、奏のこと狙ってんのかぁー?」
ニヤニヤと、日向が俺を見つめる。
その目はひどく楽しげだ。
俺はそんな日向に、少しの安堵と共に、大きく脱力した。
「日向、お前な……昨日会って初めて挨拶した女の子に、どうやったら惚れるっていうんだよ」
「一目惚れってモンがあんだろー?それにやっぱここは、奏の双子の兄として、牽制も兼ねてだな?」
「……奏もこんな兄持って大変だろうな」
鞄から教科書を取り出しつつ、盛大に溜め息を漏らす。
まぁ確かに、奏は兄の日向とは違い、非常に可愛らしかった。
だが。
そんな早々に、そいほれと惚れるワケはないし。
(一目惚れ)
何だかその言葉自体に、酷く違和感をかんじた。
「……音無、」
一際小さく俺の名を呼んだ日向に、俺は大きく顔を上げる。
そうして、目を丸くした俺が見たのは。
「――奏は、やらないよ」
どこか寂しそうにそう笑った、日向の笑顔、それだった。