日向←音無+ゆり


▼日向←音無+ゆり<<転生ネタ。日向のみ記憶なし










 白いボールが、ころころと。何かに導かれるように、公園の外へと転がってゆく。


「あーもうっ!あなたがおもいっっきりけったりするから!」


「はは、わるいー…。!」


 憤慨する少女と、申し訳なさそうに片目を細める少年。


 二人の追いかけた白のボールは、だがしかし、とん、と、誰かの足に当たり。


 ――そのままゆっくりと、拾いあげられる。


「……ほ〜らよ!元気なのはいいことだけど、もうこんな時間だぜ?早くお家に帰ろーぜ、小学生!」


 腰を屈め、帽子を摘み、あまつウインクまでした青色の髪の男。


 二人はゆっくりと、その男を見上げ。


「……おまわりさんだ」


 ……どちらともなく、呟いた。


「そうそう!だから早くお家に帰らないわるーい子は、お巡りさんが逮捕しちゃうかもなぁ?」


 ニヤ、と、悪戯そうな笑みを浮かべたその男。


 しかし一方の少女は、至極冷静に男を見返し、それからやれやれとまで頭を振ると。


「……あのね、逮捕なんてできるワケがないじゃない。そういったおどしは、もうすこし人をえらんでほしいものだわ」


 そう言い、口をへの字に曲げた。


「……は?」


 少女のその余りにも大人びた返しに、最早男は唖然にも似た表情で、目をパチパチと瞬かせるしかなかった。


「まぁまぁそう言うなって、ゆり。おそくまであそんでた俺たちもわるいんだし。……コイツはきっと、すてみのギャグで、俺たちのあそびたいきもちをそごうとしてくれたんだよ」


 冷めた目を向ける少女の頭に、優しげな少年の手が、ぽんぽんと当てられる。


 そして、そんな仕草を見た瞬間。


(――――なんだよ、これ)


 ぶわ、と、沸き出る感情。


 まるで自分はその手の温かさを知っているような。


 それでいて、思わず抱き締めたくなってしまうような。


 そんな気までした自分に、男は一瞬、眩暈を起こす。


(……やっべぇ……俺、もしかしてショタっ気あり……?)


 それは国家の警察官として、あるまじき姿である。


「……はぁ。ま、そういうことにしておいてあげる。じゃ、そろそろかえりましょ、おとなしくん」


「あぁ……だけどちょっとまってくれ、ゆり」


 少年はいそいそと、ポケットの中を探る。


 ……そして。


「…………はい、これ」


 ぽす、と、すれ違い様に渡された、小さな紙切れ。


「……じゃあな、」


 少し寂しげに笑った少年のそれを、呆然と見送ると。


「……まったく。またね、」


 すれ違った少女の、笑んだ口元が。


 ――日向くん。


 そう言って、薄く。男の名を、呼んだ気がした。










(…………なんだったんだ……)


 頭を掻いて、男はその場に座り込む。


 余りにも大人びた少女と少年。


 そして渡されたその紙切れには。


 ――ずっと待ってたんだぞ、アホ


 そう書かれた丁寧な字と、恐らくは少年のモノであろう携帯のアドレス。


(――あぁクソッ!)


 もう何も考えないようにして、日向は苛立ちのまま携帯を取り出す。


(……まずは名前からかな)


 まるで恋する乙女のように携帯の文面を考えている自分に、日向が気付くことは、恐らく、ない。



 

 
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