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 心理学とはとても繊細なものなんだ、と


 せんせいは言った。


 遠くを見つめて、そう言った。


 ――まだせんせいが若い頃。


 ある書物に手を出したせんせいは、たちまちその作者であるフロイト博士に惚れ込み、本場の心理学を学ぶために外国へ飛んだ。


 心理学を学ぶ人は、どこか普通の人とは違うらしい。これはせんせい論だけど。


 まぁそんな事より、せんせいはそこで、ある女の人に会ったんだって


 綺麗だけど少し精神が不安定な、寂しそうに笑う女の人


 心理学を学んでいたせんせいは、……ちょっとおかしなせんせいは。


 実験も兼ねて、彼女に近付いた


 甘い言葉を投げ掛けて、懐柔して


 カウンセリングもどきを始めた


 その関係は、恋人という枠組みだったけど


 せんせいはわかってたんだって、ホントは


 この女の人の行く末が


 それをどこまで変えられるかのゲーム


 今考えると馬鹿らしいよね?って、ちょっと笑ったせんせいが尋ねてきて


 私は黙ってた。


 それがせんせいの求めた答えだと思ったから


 せんせいはそこで、口を開いたり閉ざしたりして


 この話の続きは、また今度。って


 そう言って薄く笑った


 ……ねぇせんせい。


 私ホントはわかってるの、そのお話の続き


 もう、せんせいの口からその続きが聞けないことも、全部


 私の目の前の英語が踊る。


 せんせいの細い指に、なぞられて


 ねぇせんせい。私、知ってるよ。


 なにもかも。


 せんせいの閉ざされた未来も、私の気持ちが行き着く先も


 ねぇせんせい


 それでも私は








 ――あなたが好きなの





 


 
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