先生←生徒
▼先生←生徒
心理学とはとても繊細なものなんだ、と
せんせいは言った。
遠くを見つめて、そう言った。
――まだせんせいが若い頃。
ある書物に手を出したせんせいは、たちまちその作者であるフロイト博士に惚れ込み、本場の心理学を学ぶために外国へ飛んだ。
心理学を学ぶ人は、どこか普通の人とは違うらしい。これはせんせい論だけど。
まぁそんな事より、せんせいはそこで、ある女の人に会ったんだって
綺麗だけど少し精神が不安定な、寂しそうに笑う女の人
心理学を学んでいたせんせいは、……ちょっとおかしなせんせいは。
実験も兼ねて、彼女に近付いた
甘い言葉を投げ掛けて、懐柔して
カウンセリングもどきを始めた
その関係は、恋人という枠組みだったけど
せんせいはわかってたんだって、ホントは
この女の人の行く末が
それをどこまで変えられるかのゲーム
今考えると馬鹿らしいよね?って、ちょっと笑ったせんせいが尋ねてきて
私は黙ってた。
それがせんせいの求めた答えだと思ったから
せんせいはそこで、口を開いたり閉ざしたりして
この話の続きは、また今度。って
そう言って薄く笑った
……ねぇせんせい。
私ホントはわかってるの、そのお話の続き
もう、せんせいの口からその続きが聞けないことも、全部
私の目の前の英語が踊る。
せんせいの細い指に、なぞられて
ねぇせんせい。私、知ってるよ。
なにもかも。
せんせいの閉ざされた未来も、私の気持ちが行き着く先も
ねぇせんせい
それでも私は
――あなたが好きなの