リン→レン
▼リン→レン<<現代パロ。not兄弟
『――レンおにぃちゃんっ! わたし、大きくなったら、レンおにぃちゃんのおよめさんになってもいいっ!?』
見たのは、小さな少女の、きらきらと輝く目。
隣に住む年の離れた妹のようなリンちゃんは、胡座をかいて漫画を読んでいた僕の顔を覗きこみ、そんな愛らしいことを口にしたのだった。
当時中学生だった僕は、そのとき、よく考えもせずに。
『んー、わかったわかった。いいよ、リンちゃんが大きくなったら、僕のお嫁さんにしてあげるね』
なーんて、小さな彼女と約束してしまったのだ。
それが今、……こうなるともしらずに。
「――レンくんっ! まだあの緑色の女と別れてないのっ!!?」
突然ドアが開き、飛び込んできた制服姿の少女。
恐ろしく可愛いらしく、だけど精神的には図太く逞しく育ってしまった彼女は、お隣でなくなった今でも、こうして何の脈絡もなく僕の部屋を訪れる。
「……あのなぁ、リン。お前ホントいい加減にしろよな」
僕は読みかけの旅雑誌を閉じ、呆れ眼でリンを見上げる。
リンはその言葉に眉を潜めると、
「レンくんもいい加減に彼女と別れてよね」
……と。そう傲慢に言い放って、つかつかと近付いてきたかと思えば、僕の隣りにすとんと座り、あっという間に手から旅雑誌を取り上げた。
「ちょ、」
「あ、私、ここに行きたいなぁ〜レンくん今度の日曜日連れてってよ」
「ふざけんなバカモノめが」
こつりと頭を叩いてやるものの、リンは何くわぬ顔でパラパラと雑誌をめくり続け、ここがいい、あれがいいなどときゃっきゃ言っている。
……ったく。
「大体お前、どうやって入ってきたんだよ」
以前はこっそりと合鍵を作られ侵入され、(正直やる人がやれば犯罪だ)そうして、今度こそはとリン対策に鍵を幾つも増やしたはずなのに。リンは変わらずここにいる。
「ルカねぇがくれたの〜、レンくん家の新しい鍵〜」
にか、と憎たらしい笑みを向けられて、僕は最凶の異名を持つ姉の顔を思い浮かべる。
姉は何故か昔からリンの肩を持つ。
どうしたってこの姉に逆らえない僕は、先日突然訪問した姉を怖々家に上げてしまった。
恐らくあのときにスペアを盗まれたのだろう。
にこある内の一個がなくなっていたのは、きっとそのせいだ。
「……はぁ。なんなんだよなルカも。ふざけんなよな……」
「鍵なんか変えるから悪いんだよ、レンくんのアホ」
言い返そうとした僕は、だけれど何も言えなかった。
雑誌をめくるリンの横顔が、酷く悲しそうに見えたから。
「リン、」
「やだよ、私。別れてとか言ってるけど、それはあくまで冗談だもん。レンくんがあの彼女とどこ行ったって構わない。何したって、関係ない。だからさ」
「妹として側にいることぐらい、許してよ」
そのとき体が大きく波打ったのは。
何処かが、酷く痛んだのは。
……誰にも伝えてはならないんだ。
きっと、絶対。