女主人公←エミリア
▼女主人公←エミリア<<嫉妬
「…………ごめんなさい、私今、仕事以外考えられないの」
――本当にごめんなさい、
小さく頭を下げ、静かにそう謝ったアイツに、相手の男はなんというべきか、とにかく引きつった顔で残念そうに笑い、頭を下げたまんまのアイツの肩を、ぽんぽんと数回叩いた。
それに頭を上げたアイツは、小さく困ったように笑って。
空元気丸出しでその場を去った男の背中に、だけれども聞こえないように、ありがとう、だなんて呟く。
あぁ、もう!
そーゆー小さな心遣いばっかり見せるから、しょっちゅう呼び出されてばっかいるのよ!
……なんて心の中で叫んだあたしは、といえば。
そんな彼らのやり取りを、アイツの部屋に行こうと足取り軽く出掛けた矢先、偶然見てしまい、ただいま柱に隠れんぼ中。
男が立ち去った今、別にここから出て行って、アイツに話し掛けるのなんて造作もないことなのに。
…………なのに、なんでか、出て行けない。
てかなんか、無性に胸が苦しくって。
「――エミリア、一体どうしたのですか!?」
出てきたミカが、驚いたようにそう言う。
「へ……?」
呟いた途端、頬を伝う涙。
なんでか本っ当にわかんないけど、あたしはいつの間にか、泣いていたらしい。
おかしいじゃん。
なんで今、あたしが泣く必要があるんだろう。
頭ではそう思っていても、止まらない涙。
苦しくて苦しくて、どうしたって止まらなかった。
次第に嗚咽をあげたあたしに、とうとうアイツも気付いたらしい。
驚いたように目を見開き、それからこっちに一目散に駆けてきた。
「……どうしたの?エミリア?」
腰を下げて、あたしの前髪を掻きあげて。そうして、あたしの顔を覗きこむようにして、そう言ったアイツ。
……むぅ、悔しいけど、その顔はめっちゃ綺麗。
んでもって――
「……別になんでもないよ」
ついつい出た言葉。
赤くなった頬を悟らせたくなくて、顔を背けたってゆーのに、アイツはといえば。
「なんでもなくはないでしょー? まったくもう……」
そういって、少し呆れたように笑ったあと。
「な……!?」
「ほら、おねーさんの胸でお好きなだけ泣きなさい」
ちょっぴりからかうようにそう言ったあと、私をぎゅ、っと抱き締めた。
とくん、とくん、と一定のリズムを刻む、彼女の心臓の音。
まさか抱き締められると思ってなかったあたしは、体をがっちごちに硬直させ、顔をひたすらに真っ赤にさせた。
だけど次第に、彼女の柔らかな匂いとか、少し力をいれたら折れちゃいそうな体とか、あたしとそんな変わらない身長になんだかすっごく安心して、堅くなった体の力を抜き、そのまま彼女の背中を、ぎゅっと握り返した。
「……後でパフェ食べたい」
照れ隠しにそう言ったあたしに、彼女はまたおかしそうに笑って、
「はいはい、じゃあその泣き顔をクラウチさんに悟られなくなるぐらい落ち着いたら、行きましょーね」
からかうようにそう言って、また、あたしを抱き返してくれた。
(…………うん、そうだ。だってまだ彼女は)
(ここにいてくれる)
(…………だから、大丈夫)