しょうせつ | ナノ

「綾ちゃーん!!どこー!?」

すれ違う人にぶつかりながら走っては呼んだ。でもいなくて。どこにもいなくて。焦る気持ちばかりが押し寄せてきて、胸が痛くなった。このまま見つからなかったらどうしよう。もし、誰かに何かされてたらどうしよう…!

探す当てもなく、ただ闇雲に走って走って探した。冷静になんかなれなかった。自分で撒いた種なのは分かってる。でも、冷静になんかなれない。…だから、だろうか。

「やっ、やめて…!!」

近くで綾ちゃんらしき声がした。いや、このか細くて、でも芯の通ったこの声は間違いなく綾ちゃんだ。私はさっきよりも大きな声で綾ちゃんの名前を叫ぶ。焦る気持ちばかりが募る。早く見つけなきゃ…!

すると、店と店の間に幅が狭い道を見つけた。足を止めて目を凝らすと路地裏のような道には、綾ちゃんと、男が、二人、いて、頭が、重くなった。
男が綾ちゃんに多い被さり、もう一人の男は汚く笑いながらスマホのレンズを綾ちゃんに向けていた。怒りが込み上げてくる。

後先考える暇なく私は、

「わ、」

と言い出したと同時に綾ちゃんの前にいた男の股間に間髪入れずに蹴り上げ、

「私の恋人を汚すなああああ!!」

綾ちゃんの近くにいたもう一人の男にも素早く股間を蹴り上げた。スマホで写メっていたのか録画していたのか確認する時間は残念ながらなかったが、男共が股間を抑えながら悶絶していたからその隙に綾ちゃんをお姫様抱っこしてその場から立ち去った。
股間にダイレクトアタックさせた足が気持ち悪かった。



「ら、蘭ちゃん…もうっ…」

あれから結構な距離を走った。人通りの多いショッピングモールを駆け抜けて、やっと人が少ない静かな公園に着いた。…当然その間は綾ちゃんをお姫様抱っこしていたわけで、公園に着いたしそろそろ降ろしてと目で訴えた。辺りを見渡すと丁度涼しそうな木陰があったからゆっくり降ろすと、綾ちゃんは目に涙を溜めながら謝った。

「ごめっ…なさ……」
「なんで綾ちゃんが謝るの。謝るのは私の方だよ。…あんなこと言ってごめん。もう言わないから」
「っ、違うの!」
「え、」
「違うの…。あれは嫌とかじゃなくて…その……嬉しかったの」

嬉しかった…?でも…、嬉しそうにしている様子じゃなかった気がする。でも本人が嬉しかったと言うのだからそうなのだろう。…じゃなきゃこんな顔はしないが、理由がいまいちわからない私はただ、眉間に皺を寄せることしかできなかった。

「…どういうこと?」
「あまりに嬉しすぎて、その、違う言葉が出ちゃったというか…」

店で言われたことを思い出したのか、語尾が小さくなっていく。罪悪感でいっぱいなのに、そんな姿も心の底から可愛いと思える。

「それにね!私は時と場所を考えてほしかったの」
「…例えば?」
「っ…、ひ…人がいない場所、とか…」
「ほーほーなるほど。姫はそういうシチュがお好みですか」
「なっ!?ひ、姫じゃないー!」

さっきまでお姫様抱っこされていたのに否定するとは。でも姫って呼ぶのもいいかも。姫って言ったときの反応がすごく可愛いし。でもやっぱ名前で呼びたいから姫はたまに使うことにしよう、うん。

とりあえず安心した。嫌悪感を抱いたわけではなく、ただ時と場所を考えてほしかっただけなんだね。ただそんな乙女な理由で本当に安心した。…そりゃそうだよね。だいたい電車であれだけ密着して嫌なハズがない。冷静になって考えるとあんなに悩んでたのがバカらしくに思えてくる。あ、でも外では自重しないとね。

そこでハッとする。さっき私が言ったセリフに嫌気が指して逃げたわけじゃないのだとしたら…?TPOを弁えて言ってほしかっただけだとしたら?

「(今なら好きって言っても、受け入れてくれる…?)」

…けど、それとは別に私にはまだ不安要素がしつこく残っていた。まだ胸騒ぎがしていた。

「…それよりさ、正直に答えてほしいんだけど」
「?」
「さっき、乱暴なこととかされなかった?」
「!!」

あると言った顔で一気に青ざめる。分かりやすくて助かる。

「なにされたの?」

…分かりやすからこそ、私は男共にイライラを募らせ少し尖った言い方をしてしまう。普段私はそんなこと言わないから綾ちゃんが小さな体を強ばらせる。ごめんね綾ちゃん。でも許せないの、アイツらを。

「…えと……」

明らかに言うか言うまいかで迷っている顔だった。でも私は催促せず、ただジッと彼女の言葉を待った。

「………胸、触られた」
「――――」

事実を告げられた途端視界が、ぐにゃりと歪んだ気がした。頭がおかしくなりそうだ。あんな薄汚れた手で汚れていない胸を触ったと言うのか。汚れを知らない綾ちゃんの胸に気安く触れたというのか、私の綾ちゃんに。

「…どんな風に?」

更に密着しながら手を綾ちゃんの胸に当てる。そうだ、綺麗にしてあげなきゃ。私が汚れを取らなきゃ。今の私にはそのことしか頭になかった。

「っ…。ここを…こんな、風に…」

胸に当てている私の手の上に自分の手を重ねてお手本を見せるかのように柔らかく揉んだ。

「こう?」
「あっ…!…っ、うんっ…。そう…っ」

きっとこんな風に気安く揉んだんだろうなと想像しながら掌で包み、乳房を揉んだ。指で押し込む度に甘い声を発しては私の脳内を刺激する。制服の上から触っているのにすごく柔らかい。一体何食べたらこんなに柔らかくなるんだろう。

「んっ、あっ…!」

一応声は抑えているつもりでも、きっと周りには聞こえているだろう。人が少ない公園の木陰で、私たちは多分、今イケナイことしてる。それだけで興奮する。

「やっ、も、もっと…っ!」

耳が蕩けそうなぐらい可愛い声で強請られる。そう。もっと綺麗にしなきゃ。

私は少し雑に上半身の制服を脱がした。続けてスポーツブラを捲り上げると小さな胸が晒される。ほどよく膨らみかけている胸とほどよく薄ピンク色に色付いた乳首が可愛らしかった。

「ら、蘭ちゃん…っ」
「こっちの方がもっと綺麗にできるよ」

なんて言うのはもうただの建前かもしれない。ただ私が綾ちゃんの胸を愛撫したいだけなんだ。
外で晒しているせいか呼吸が荒くなっていて顔は赤く染まっていた。こんな艶かしい姿を見たらもう歯止めが効かない。

片方の乳首に舌を這わせ、まだ手をつけていない方の乳首に親指と人差し指で摘んだりすると体がビクンッと動き喘ぎ声が大きく漏れた。

「ひやぁっ!そ、なっ…!あっ、あんっ!」
「くすっ。声、大きいよ」
「だ、て…!気持ち、いん、だもんっ!」
「っ…! 綾ちゃん…、私っ」

嗚呼、こんな流れで言っていいのか。TPOを弁えろと叱られるだろうか。機嫌を損ねてしまうだろうか。…いや、もうこれ以上悩むことは何もないだろう。さっき綾ちゃんは何て言った。店で言ったときの言葉は嫌なんかじゃなくて、ただ時と場所を考えてから言ってほしかっただけで、素直に嬉しかったと答えてくれたじゃないか。外だけど、きっと大丈夫。

それに乱れてる綾ちゃんを目の前にして躊躇う必要がどこにある?こんなに気持ちよさそうに喘いでる彼女に不安がる必要はないはずだ。確証なんていらない。ただ、好きだから。彼女のことが愛おしいから。…言おう。言ってしまおう。

「私、好き…」
「っ…」
「ずっと前から綾ちゃんが好きだったよ。友達としてじゃなくて」
「蘭…ちゃん…」

返事が聞きたくて、胸からそっと手を離した。嬉しいのか驚いているのか目をかっ開いて、ゆっくりと口を開いた。

「私もね…好きだよっ!蘭ちゃんと同じ気持ちだよ!」

どうやらこの言葉を待っていたようで、今まで見たこともないような幸せそう微笑んだ。やっと綾ちゃんの口から好きと言ってくれた。こんな時がいつの日にか来ると信じて待ち続けた結果は最高に、これ以上ないくらいハッピーエンドだった。

「綾ちゃん…」
「蘭ちゃん…」

幸せな気持ちに浸り、暫く見つめ合うと、どちらからともなく唇を優しく重ねながら私は、もう何がなんでも綾ちゃんを離さないと心に固く誓った。




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