しょうせつ | ナノ

『この同性カップル、実は以前から―――』

夕飯が出来たと母から呼ばれて台所に行ったらテレビの特集で『密着!同性カップル』なんていうありきたりなタイトルで画面に同性カップルが映っている。ちなみに女性同士だ。女性同士が幸せそうに手を繋いでいる。母が食器を出してテーブルに持ってくると私と同じようにテレビを見た。

「同性カップル、ねぇ」

テレビの音より小さな声で独り言のように呟く。その呟きに心臓が鳴る。興味ないフリをして私も呟く。

「…普通は異性と交際するもんでしょ」
「うーん、そうねぇ。私は相手がいい人なら良いんじゃないかな」
「!?」

お、驚いた。母の口からそんな肯定的な言葉が出るなんて。普通は異性と結婚するものだとか、同性はよくないだとか、軽蔑するもんだとばかり思ってきた。…だからかな、普段そんなこと言わない母から今の理由を尋ねた。

「え、なんで?」
「相手が誰であろうと心の底から好きになったんだったら性別関係ないって言うし、本気でその人が好きだから変な目で見られても構わないっていう強い想いというか意思があるんじゃないかしら」
「………」

結構真面目に語り出すから返す言葉が見つからなかった。その間、あの子が頭の中にフッと静かに、霧のように浮かんできた。

「(綾ちゃん…)」

霧で出来た綾ちゃんがにっこりと笑う。

――――好きなら想いを告げていい?
心の底から好きなら本当に性別は関係ない?

風に消された妄想に問いかける。妄想は答えてくれない。もう消えたから。

「さっ、もう食べましょ。ご飯冷めちゃうわよ」
「あ、うん。頂きます」




いつもと変わらぬ賑やかな教室に入り綾ちゃんに朝の挨拶をする。綾ちゃんの席まで行くと足音か気配で気づいたのか空を見上げていた綾ちゃんがこちらに首を動かす。

「おはよ、綾ちゃん」
「あ、おはよー蘭ちゃん」

彼女は佐々木綾。背丈は私と同じ。でもその体には小さな胸というコンプレックスを抱えている。本人は私みたいに大きくなりたいと言っているが私は小さい胸が好き(綾ちゃんに限る)だからあまり勧めていない。

そして今、恋心を抱いている相手でもある。

「ねぇねぇ!昨日の見た?」
「え、なにを?」

つぶらな瞳を輝かせながら言う。くそかわ。

「同性カップルの特集やってたよねっ」
「! あぁ…あれね。うん、見たよ」
「憧れちゃうよねぇ…。私も、」
「…私も?」
「! あ、いや、うん。なんでもないよっ。えへへっ」

『…私も、』

言いかけた言葉の先はなんだったのだろう。地雷をギリギリ余けたと言ったところか、なんでもないと言うが…。いやそんなてへぺろみたいなことしても、ねぇ。でも可愛いからいいや。可愛いから全て許される。

だから深く言及はせずに他愛のない話しに切り替えた。

「そういえば今日って学校、早く終わるんだよねっ」
「あー。確か今日から保護者面談で短縮日課になるんだったねぇ」
「それでね!その、早く終わるから蘭ちゃんと寄り道して行きたいんだけど…ダメかな…?」

少し照れくさそうに頬を赤らめて少し上目遣いで聞かれたがそんな子鹿みたいに可愛らしい顔で聞かれたら断る理由などどこにある。

「いいよ。時間たっぷりあるからいろんなところに行けるしね。どこに寄って行こうか」

いいよと言うとパアァッと顔を輝かせる。まるで萎れていた花に水をあげたら花が開いたような。だがそんな笑顔をしたのも束の間。

誘えたのはいいが流石に行く場所を考えていなかったのか、眉を顰めて考え込む。

「あ、えと…どこに行こうかな」
「なら、普段行かないショッピングモールとかどう?定番だけど」
「うん、いいね!そこにしよっ」

私が提案するとまた笑顔に戻るの見て安堵する。ショッピングモール、別に買いたいものないけど、綾ちゃんといられるならどこでもいいんだ。




いつもより早めの放課後。私らはいつも乗る電車で二駅ほど多く乗った。この電車、利用客はそこそこいるが、今の時間帯…一時頃だとガラガラで人の数は指折り数える程度しかいない。で、私らが乗ってる車両は誰もいなくて。

「二人っきりだね」

座席に座ると綾ちゃんがこちらに首を傾ける。かなり密着してる。二人っきり、と言う言葉に胸が高鳴る。

どうしよう私らまだ恋人同士じゃないのに。いやいや問題はそこじゃなくて綾ちゃんからこんなことされるなんてもう心臓持たない!今すぐ好きって言いたい!でもきっとこれは友達だからという意味でしてるのであって綾ちゃんは私のことを友達として見ているから、つまり、つまり…!

「もう…。それは友達に向かって言うセリフ?」
「あ、う…。だって…それは…」
「っ…。それは?」

今まで見たこともないくらいに顔全体が赤くなり恥ずかしそうにもじもじし始める。…ねぇ、もう告白してもいいんじゃないかな。母さんだって好きなら性別関係ないって言ってたんだし。うん、そうだよ。好きになったら性別なんてどうでもいい。周りの人にどんな目で見られようと構わない。

「相手が、蘭ちゃんだから、だもん…」

嗚呼、好きなら女の子からこんなこと言われたら理性が持たなくなる男子の気持ちが今ならわかる。すごくわかる。

あああああ好き。好きだよ綾ちゃん…!どうしようもないくらい大好き。今すぐこの気持ちを伝えたい。

「綾、ちゃん。…私、」
「…蘭ちゃん、心臓の音がドックンドックンって言ってる」
「えっ」

そうか、今の綾ちゃんは私に体を預けている状態で、顔が心臓に限りなく近い位置にあるから…。

「もしかして今、ドキドキしてる…?」
「…綾ちゃんは?」

答えるのが恥ずかしくて質問を質問で返してしまった。なのに、それでも綾ちゃんは、

「うん。私もドキドキ、してるよ」

って戸惑うことなく答えてくれたから私も綾ちゃんと同じ答えを言った。余計ドキドキして苦しい。良い意味で。
もう…これじゃあ好きって言ってるようなもんじゃない。綾ちゃんが好きという意味で捉えたのかはわからないが、心底嬉しそうに

「良かった…。今私たち、一緒にドキドキしてるんだね」

そう言うのだった。




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