食いしん坊な大男


あれからアリアは世界を旅した。

色々な事を知るために、料理人の腕を磨く為に。

けれども父親以外の人に料理を作ったことの無いアリアには料理人の重要性を全く知らなかったのだった。

そんなアリアに食材の声が響きわたる。

他の人には聞こえないがアリアには聞こえていたはっきりとした¨助けて¨の声が…。

アリアの身体は動いていた、その声の導かれるままに…。

「チッ…てめーチョーシに乗ってんじゃねぇ!」

「あれは…。」

丘の上から見える1体の大きな猛獣と一人の大男。

赤い髪の左頬まで裂けた口の男。

「サウンドバズーカ!!」

男の口から放たれた空気の弾は猛獣の足を直撃し倒れる。

アリアは男に向かって叫ぶ!

「止めて!!」

男の動きはピタリと止まると丘の上から一キロは離れているだろう場所から声を発する。

「何だぁ!?てめー!」

遠くから発しているにも関わらず近くから…耳元で叫ばれる位の声にアリアのからだははね上がる。

「…!その子を殺さないで!」

アリアは急いで猛獣の元に駆け寄り大男の前に立ちふさがる。

「ムリだ。のけ…。」

アリアを押し退けると猛獣に向かって口を開く。

「サウンドバズーカ!!」

「だめぇーー!!」

身体は反射的に動いていた…。


ドッーーーー!!


「あ…うぁ…」

ほぼゼロ距離でもろに身体に攻撃を受けたのだ。

内臓を持っていかれたらいの痛みが身体に走る。

走馬灯が頭に流れて急に真っ黒になった。






「ん…あ…。」

目が覚めると怖い顔が目の前にあった。

「きゃああああ!」

「ウルセェー!!」

大男は叫ぶアリアに叫び返すと舌打ちをしてそっぽを向く。

「ここは…?」

「あ…?洞窟の中だ。」

「あ…えっと…。ありがとうございます。」

アリアは傷付けられたが助けてくれたことにお礼を言った。

「てめーチョーシに乗るなよ。」

「私はそんなことっ…!ただあの子を助けたくて…」

「……。嘘は言ってねーな…。」

大男は立ち上がると洞窟の入り口一杯にある食材を指差す。

「俺の邪魔した罰だ。ウメェもん食わせろ。」

アリアは小さく笑って返事をした。

初めて父親以外の人に作る料理…嬉しくて堪らない。

「はい!喜んで!」



アリアは華麗な包丁捌きで淡々と料理を作る。

素早く優しく食材を扱う…感謝の気持ちを持って…。

大男の前に大量の食事が並ぶのに時間もかからなかった。

「ほぉ…やるじゃねぇーか…。」

大男はニヤリとした笑みをすると信じられない速度で食べ始める。

三十メートルに渡る料理を十分かからずに平らげる。

「は…早い…。」

「てめえ…何ぼさっと突っ立てるんだ?
早く次を持ってこい!」

「あ…ごめんなさい!」

大男の前に次々と料理を作っては消えていく…。

自分の料理をこんなにも美味しそうに食べてくれる人を見ると嬉しくなる…小さく笑うと大男はそっぽを向いた。

「チョーシに乗りやがって…。」

「今何か言いましたか?」

「さっさとメシを持ってこい!」

「あ、はい!」

慌ただしい時間はあっという間で気付けば食材も無くなり大男も満足感そうな顔をしている。

「あの…ありがとうございました。」

「あぁ!?」

大男の威圧的な態度に畏怖しながらもアリアは話を続けた。

「美味しそうに食べてくれて…嬉しかったです。」

「ウメェもんを不味そうに食うやつはいねぇよ…。
それに悪くねぇ味だ。気に入った。」

大男は立ち上がるとアリアに近付き頭を叩く。

「痛っ!」

「てめえ…俺に適応しろよ…。」

「それてっ…どういう…?」

大男は黙ったまま戸惑うアリアを見詰めると小さく笑む。

「名前教えろ。」

「アリアです。」

「覚えておいてやる。これからは俺が面倒見てやる。」

「え…?」

大男は体の向きを交えて歩きだすとアリアも続いて歩き出そうとすると¨ついてくんな!¨と叱られた。

「ご…ごめんなさい…。」

「¨ゴミ¨を片付けに行って来るだけだ。
言っとくが逃げたら許さねぇぞ!」

「あ…はい…。」

アリアはいう通りに洞窟から出ないようにした…。

すると外から戦闘しているであろう声が響くと同時に地面が揺れる。

「だ…大丈夫かな…。」





名前も知らない大男を心配するも大男は一度出ていったきり二度と元の場所には帰っては来なかった。

そして代わりに戻って来たのは鉄平だった。

「アリア!大丈夫だったか?!
アイツに酷いことされなかった?」

¨アイツ¨とは大男のことであろう…アリアは頷くとホッとする鉄平はアリアをお姫様抱っこする。

「て…鉄平!?彼はどうなったの?」

「あいつは…俺等が捕まえたよ。今頃ハニープリズンだろうよ。」

ハニープリズンとは脱出不可能の刑務所である。

「ど…どうして…?」

「食べ過ぎてっやつだ。」

「た…食べ過ぎ…?」

鉄平は頷くと足早にその場所を出る。

「ああ、絶滅させ過ぎたんだよ。」

「………。その…彼はいつ出所できるの?」

「さぁな…。…!?てかアリア会う気なの!?」

アリアは微笑むと鉄平は引きつった笑みをむける。

「止めとけって…危ねーぞ。それに俺がアリアには近付かせねーよ。」

「でも悪い人じゃ無かったよ…。食いしん坊で何だか可愛い人だったなぁ。」

「おま…アリア、もしかして…コンビになろうなんて考えて無いよね!?」

「コンビ…てっ?」

「まぁ…何だ。美食屋と料理人でこれからの生涯のパートナーてっいうか…。」

コンビという言葉に胸踊るアリアは空を見上げる。

「コンビかぁ…。良いなぁ…」

鉄平はアリアをみるや小さく呟いた。

「俺も美食屋してたら良かった…。」

「鉄平…?」

「何でもない!さ!行くぞアリア!」

アリアを抱えたまま鉄平はある場所に向かうのだった。








グルメデパート、食材から料理器具などあらゆる物がそろう場所。

「鉄平…この包丁凄い…。」

「流石は料理人だな…じゃ無くて!アリア、今から一流ホテルの料理を食べに行こうと思ってるんだが…」

「本当に!?いいの?」

鉄平は勝ち誇った様に返事をする。

「それで…多分だと思うが…ドレスてっ持ってんのか?」

アリアは当たり前の様に首を振ると鉄平は頭を抱える。

「だと思ったぜ…。」

「で…グルメデパートに…?」

鉄平はアリアの腰に手を回しドレスのある階に連れて行く。




その場所にはガラスケースに沢山のドレスが飾られている。

「わぁ…。凄い…沢山ある!」

「ほら、行ってこい好きなドレス買っていいぞ」

「うん!」

アリアはドレスを一つづつ見ていく。

形状や色など様々でアリアは目を輝かせる。

「どうしょうかな…これもいいし…これも…んー…。」

アリアは一番奥のドレスに目がいく…白色の純白のドレスだ。

「綺麗…。「美しい…。」

アリアの言葉を被せる様に男の声がかかる。

「あ、えっと…。」

「あ…?」

ショウウィンドウの前で向き合うと男はアリアを見るや否や¨いい¨と指差したのだ。

「俺はサニー、お前…名前は?」

「アリアです…。」

サニーは髪をなびかせた。








 

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