監視と接触
スリットの入った膝丈のスカートにロングブーツに
ヒラヒラのエプロン姿。
長い髪を高めに1つにまとめ花のついた髪飾り。
男は森で出会った美しい彼女に一目で釘付けになった。
単に美しいだけではなく彼女は¨食材¨と心を通わせていたのだ。
笑顔で食材に語りかける彼女は妖精の様で神秘的だった。
木に隠れてこのまま見ているだけで良い。
アリアは森でメープルハニーを木から貰う。
「ありがとう。」
木を優しく撫でると喜ぶように花が咲く。
その時木はアリアに¨後ろ¨と言っていた。
気をやれば何者かが後ろの木に隠れているのが分かる。
「誰…?」
男は溜め息を付いてから両手をあげて木から姿を現す。
黒い服に長い黒髪に綺麗な顔立ちの男。
しかし額の数本の縦傷は痛々しさを物語る。
「はじめまして。美しいお嬢さん。」
「に…人間…?」
男はアリアの言葉に顔をしかめる。
「まるで人間を知らない口振りだな。」
「貴方が私が見た中では二人目。名前…教えて?」
こちらに興味を持つアリアに口角を上げる。
「スターと名乗っておこうか。お嬢さん。
それに…」
瞬きの間の0.1秒の間に間を詰められ右手を握られていた。
アリアは余りのことに体が強張る。
「名を名乗るなら自分が先だ。」
「あ…ごめんなさい。アリアと言います。」
「アリアか…いい名前だ。」
右手はまだ握られていて離そうとしてもほどけない。
「何者なの?」
「とある組織のものさ。」
「組織…?」
「ああ、君のような料理人が来てくれると実に助かる。ボスもきっと喜ぶだろうな…。」
スターはアリアを抱き寄せ頭をそっと撫でる。
「このまま連れ去ってもいいが、君には見張りがいるみたいだ。」
小さく呟く言葉にアリアは振り向くと。
スターは体を離しもう一度振り返った時にはもう居なかった。
「スター…。」
静かな森の中で男の名前を呟いた。
ガルルルルルー!!!
獣の威嚇声が聞こえる。
それも凄く近く…。
気付いた時にはもう遅かったのだろう。
「がぁー…っ…!!」
視界には自分の両手足が見える。
下を向いてもいないのに…。
足をちぎられたのだ。
激しい痛みに体が動かない。
¨スター……¨と心で男の名を呼ぶ。
「インパクトノッキング!!」
アリアは痛みの中視界に映したのは緑色のジャージを着たリーゼントが特徴の男。
男は両手をアリアの四肢をちぎったであろう獣に突きつけていた。
すると獣の体は全く動かず固まる。
いや、正確には動けなくしたのだろう…。
動けない事を確認するとアリアの四肢を拾い上げ近付く。
「あ…あなたは…。」
喋ろうとするも声が出ないアリアに¨黙ってろ¨と一言言うと胸ポケットから植物の種を取りだし植えるとそこからドクターアロエがみるみるうちに生える。
それで四肢と胴体を元の位置に付け包帯の様に巻き付ける。
「お前…無茶しすぎ。俺の事考えてくれる?」
私を抱き上げ歩く道中、軽い口調で坦々と離し続ける。
「大体君はなんでこんな危ない森に来るかなぁ。
それに俺の目の前で人間と接触するしさぁ。
てか、俺もしちゃったけど…。いや!まずどうやって接触せずに止めろって言うんだよ。無茶すぎるぜ。」
アリアは話を止めない男の話を無言で聞いていた。
すると、こちらの方を向き
「なんか喋れよなぁ…!」
「え…。」
ずっと話していたと思うと急に喋れと言われても困った話だった。
「えっと…はじめまして。さっきは…ありがとう。」
お姫様抱っこであった為に自然と上目使いになる。
目が合うと¨おおっ!¨と驚きの声を漏らす。
「今のは最高だな…。ぐっと来た。
俺は鉄平、再生屋さ。まぁ再生屋てっもまだまだ半人前だとか言われてるんだけどね…。」
へらへらと笑う鉄平につられて笑う。
「ふふっ…楽しい人。」
「おっ!マジで結構嬉しい!」
「それにまだ半人前てっ言ってるけど私の命の恩人なのだから貴方は私にとっては一人前ですよ」
鉄平は頬を少し赤らめて鼻を伸ばす。
「や…やべぇな…。お前があの会長の娘じゃなければ俺手出してたわ…。」
「お父さんてっ凄い人だったんだ。」
鉄平は驚きを隠せなかった。
「マジでお前知らないの!?」
「うん。ただの酒の弱いオジサンかと思ってた。」
「スゲーわ…。俺も言えねぇけど。」
「…?鉄平も凄い人の子供なの?」
「おうよ!あのノッキングマスターの二郎…てっも知らないか…。」
アリアは乾いた笑いをする。
「あはは…ごめんね。世間知らずで…。」
「いや、いいよ。それでお前の身が安全なら。」
「…?」
「いいや、こっちの話。」
アリアは首を傾げるも鉄平は微笑んで誤魔化した。
すると前方に空飛ぶ土地が見える。
「ここは?」
「着いたぜ、癒しの国ライフ。
俺の師匠紹介してやるよ。」
鉄平はアリアを抱えたまま足を進めた。
このとき鉄平は気づかなかったであろう。
アリアがどうして狙われるのか…。
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