節乃食堂
鉄平に連れられやって来たのは小さな食堂だった。
「節乃食堂…?」
「ああ、会長もよーく知ってる人だ。」
鉄平は引き戸を開けるとそこには可愛らしい小さなお婆さんがいた。
こちらに気付くと¨ふぉっふぉっ¨と笑いこちらに跳ぶように近づく。
「あ…初めましてアリアと言います。」
「ほぉ…あんたがアリアちゃんか。イッチャンから聞いとるよ、全然にとらんのぉ」
イッチャン、一龍の事であろう。
「お父さんを知っているのですか!?」
「おん、いい男じゃよーでもジロちゃんには負けるけどのぉ」
「ジロ…ちゃん?」
鉄平はアリアの肩を叩き気まずそうな顔をする。
「俺の親父のノッキングマスターの二郎のこと」
「鉄平のお父さん!?」
「お前…まさか…イッチャン所の子に手を出しよんのか?」
「いや!そんなことは…あはは…。それよりキッチン貸して欲しいんだけどさ…。」
節乃は¨おや¨と言ってアリアを見るや目を光らせる。
「この子の料理人だねぇ…それも相当な腕の…」
「え…私…まだ一人にしか料理振る舞った事無いのに…。」
「それは驚きじゃ!ふふん…良いじゃろ…貸してあげるよ」
「あ…ありがとうございます!」
鉄平は安堵して近くの席に座ろうとすると節乃は¨お前も手伝いんしゃい¨と叱った。
「分かりましたよー働かざるもの食うべからずですもんねー…。」
アリアは鉄平の側により笑顔て¨頑張ろ¨と言うと鉄平は奮い立つように返事をした。
「骨抜きじやのぉ…。」
節乃はその光景に呟いた。
「アリアや、お主食材の声が聞こえとるのか?」
「え…はい。どうしてそれを…?」
二人きりのキッチンで節乃は料理をしているアリアの手捌きと手元にある食材を見ていた。
「その食材は特殊調理食材じゃて…普通では捌けん。知っていた訳でもなさそうじゃしな」
「そうなのですか!?この子がここを切ってと言っているようで…私はそれに従っただけです。」
節乃は¨そうかそうか¨と言うと小声で話を進める。
「所でお主鉄平はどう思っとる?」
アリアは首をかしげる。
「彼は私の命の恩人ですし、何時も私を気にかけてくれる人です。」
「ほほぉ…鉄平に変わった所とかなかったか?」
「変わった所…。あ!今日食事に誘われてですね、途中でサニーさんと一緒になった途端に不機嫌になってしまって…私…」
「それはのぉ…鉄平はお主と二人きりが良かったのじゃよ」
「二人きり…ですか?皆で食べた方が美味しいのに…?」
「鉄平はお主のことが…「ただいま帰りました!」
節乃の声と門扉から入ってきた鉄平の声で欠き消される。
「お帰り鉄平!」
鉄平の元に駆け寄り節乃から依頼された食材を受けとる。
「これは…?ハチミツ?」
「ああ、捕るのに苦労したんだぜぇ…」
疲れ気味の鉄平をアリアは椅子に座らせると
「待って!もうすぐ出来るから…鉄平…あのね…。」
「ん?どうしたの?」
「ううん、何でもない。ありがとう。」
鉄平は少し頬を赤らめて返事をした。
アリアが料理を作っている間、鉄平の元に節乃が近寄る。
「鉄平…お主…あの子に惚れておるな?バレバレじゃ…」
鉄平は顔を真っ赤にして動揺を隠せずにいる。
「な…な、なんでそれを…!」
「誰だって分かるわ…。じゃが、アリアは鈍すぎると言って良いほど鈍すぎるのぉ…。」
鉄平は頭を抱えて前のめりにになる。
「でしょ!俺結構モロにアピールしてるのにさぁ…。」
節乃は鉄平とアリアを見やると鉄平の耳元で囁く。
「ああいう子は大概、直感で恋人を決めてしまうじゃろう…。じゃが…まだ勝機はあるぞ…ほっほっ♪」
「そうですかねぇ…コンビになった人と結ばれるてっオチな気がするんスッよね…。」
節乃は頬を赤らめて
「ワシとジロちゃんみたいにのぉ♪」
「そんな…嫌な事を言わないでくださいよぉ!」
そこに料理を持ってアリアが現れるが彼女は肝心な話を聞いていないようだった。
「嫌な…事…?」
「いいやぁ…アリア…何でも無いよ!」
鉄平は焦った様子で誤魔化すが節乃はちょっかいを出す。
「アリアさっきのぉ…鉄平がお主の事がす…「わああああ!!!」
鉄平は大声を上げてアリアの料理を取る。
「さ!食べようか!俺アリアの料理食べたかったんだよねー!スゲー楽しみ!」
「本当!?嬉しい!」
鉄平は料理を自分の皿に取り口に運ぶ。
「うまい!アリアの料理は世界一だよ!」
「ほほぉ…それはワシの料理よりか…?」
「ち…違い…いや…あ!いや…!」
慌てふためく鉄平の隣に座りアリアは鉄平の手を触る。
「え…。美味しくないの…?」
「いや!美味しいよ!スゲー美味しい!」
「そうじゃアリア、鉄平はのぉお主の事が」
「ちょっと!?」
鉄平は慌てて止めに入るもアリアは聞こえてしまった。
「鉄平が…私の事を…。」
顔がリンゴのように真っ赤になり顔を背ける。
「いや…その…そうなんだ…俺はアリアが好きだ!」
「鉄平…。」
鉄平はあの鈍い アリアが自分の愛に気付いてくれて嬉しかった…と…思ったが…。
「うん!私も好きだよ♪」
やっぱり気付いてくれてはいなかった。
「ふぉっふぉっ♪まだまだじゃのぉ…。」
節乃は料理を口にしながら笑った。
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