勝機
私の目の前には自転車に乗った福富くんがいたのだ。
福富くんは私にハンカチを手渡す。
「何があった…?」
ハンカチで涙を拭う…。
全てを話してしまえばどれだけ楽なのだろうか…。
でも、今の私にはそんな時間はなかった…。
「お願い!福富くん、私に少しだけ自転車を貸して!」
福富くんは、私の瞳をみてから
「かまわないが、身体に合わないぞ…」
「そんなことは、言ってられないの!!」
そう言って私は彼の自転車にまたがる。
「ごめんね、後で直ぐに戻ってくるから!」
私は急いでペダルを回した。
「…。」
私の背中を見て唖然とする福富くん。
キキッ…
福富くんの側に自転車が止まった。
「寿一、なんで由香の自転車を持っているんだ?」
福富くんは私が置いていった自転車の側にいた。
「新開か…さっき花佐部が急に俺の自転車を借りたいと言ってきてな…。」
新開くんは「そうか…。」
とだけ言ってペダルを漕ぎ始める
「待て、新開。」
彼はペダルを漕ぐ足を止めた。
「どうした?寿一」
「お前…花佐部に何をした?」
新開くんは首をかしげただけだった。
「俺は由香に愛情を注いだだけだよ。」
そうして、自転車を漕ぎ始めた。