心愛と信愛 | ナノ

コウキシン


やってしまった…。
私は大学にあるベンチに腰を掛け溜め息をついた。
今は7時。受講時間は10時。
そう、早すぎたのだ…。
やることもなく暇潰しにも何も持ってきて無い。
「莉沙まだねてるなぁ…。」
莉沙は遅刻ギリギリの人だし…。
家に帰るにも遠すぎる…。
「ん……?」
自転車を漕ぐ音が耳に響く。
近くの部屋からだ…。
誘われる様にその部屋へ足を進める。
扉が開いておりソッと覗くと一人の人影が見える。

「あ…福富くん。」
そこにはローラーの上で自転車を漕ぐ福富くんがいた。
向こうもこちらに気づき足を止めようとする。
「あ!福富くん!そのままで良いよっ!
ごめん…邪魔だったよね…。」
福富くんはこちらを見やり足を動かす。
「いや…邪魔ではない。むしろ助かる。」
「え!本当!?良かったぁ…」
私は福富くんの側に寄る。
「福富くんおはよう。」
「ああ。おはよう。」
「福富くんてっ自転車部だったんだね
その自転車格好いい。」
「ああ。ありがとう。
それより花佐部はどうしてこんな時間に居る?サークルか?」
「え…とっ…早く起きすぎちゃって…。」

自然と話が盛り上がる。
福富くんの事好きだからだろうか…?
話したい事が溢れ出る。
いや…途切れさせたく無いのかも知れない。

タイマーが音を立てる。
気付けは授業まで30分前になっていた。
そう2時間半も話をしていたのだ。
「あ…ごめんね!なんかずっと話に付き合って貰って」
福富くんは自転車をしまい終えタオルを手に取る。
「いや、まさかここまで話せるとは思わなかった。
それに俺たちにとってローラーの時間は何も無いからな。いい話相手だった。」
「私もだよ…そうだ!一緒に…」
行こうと言いかけたとき後ろから声が掛けられる。
「寿一。もう授業始まるぞ。」
「ああ、分かっている。」
後ろを振り向くと昨日の莉沙の赤髪貴公子がいた。
「あ……初めまして花佐部由香です。」
貴公子は爽やかな笑みを送ると
「初めまして俺は新開隼人。君の友達の貴公子さ♪」
どうやら彼にも全て聞こえていたみたいだ。
「なんか…すみませんでした…。」
「ははっ♪いいさ。俺は誉め言葉だからね。」
「良かったぁ…。あ…!いけない!」
莉沙からのメール
早く来いの一文…。
「ごめんなさい…私もう行かないと…。」
「寿一あと少しで着替え終わるけど?」
と更衣室を指差す。
「友達をこれ以上待たすのはいけないから…」
すると新開さんは私に近付き耳打ちする。
「本当は寿一と一緒に居たいだろ?」
私は顔を真っ赤にし新開さんを突き放す。
「そ、そんなこと!私っもう行きますから!」
「バイバイ♪俺は寿一と一緒に行くからさ。」
手を振る彼に私は手を振り返し急いで後を去った。


新開は扉の開く音と同時に振り向く。
「やっと終わったか…由香ちゃん行ったよ?」
「そうか…。」
「俺さ…実は7時には居たんだけどさ
由香ちゃんと二人きりで話してる寿一見てると
微笑ましくてね。外周りを走って来たんだ。」
「そうなのか。」
「それにしても由香ちゃん。
あんな可愛い子いつ知り合ったの?」
「昨日の授業終わりだ。」
「昨日!?あのはぐれたときか?」
驚く新開に対し福富は淡々と返す。
「そうだ。」
「へぇ…やるねぇ♪」
「鍵を拾っただけだ。」
「寿一…なんとも思わなかったのか?」
「…?どういうことだ?」
「いや…。まぁいいよ。」
福富は扉の閉める。
「なぁ、寿一。」
「どうした?」
「由香ちゃん可愛いな。」
「話の合う奴だ。」
「おめさん気付いてないとは思うけど
あの子必死に話を繋ごうとしてる感じ
なんて言うのかなぁ…」
「……?」
考え込む新開。
「あ!そうだ…!兎だ!」
「兎?」
「そう、兎♪
寂しがりやで寿一に必死に寄り添う感じとかさ!
愛らしくてギュッとしてやりたくなる!」
「兎か…。」
「なっ?可愛いだろ?」
新開は妖しく笑った。

俺は思う。
これは¨コウキシン¨だと!

嗚呼…!彼女をもっと苛めてしまいたい。
俺は溢れ出る心を押さえるのに必死だった。
寿一に悟られない様に息を潜めるのだ。






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