心愛と信愛 | ナノ

目の前の現実


あれから数週間。
全く由香とは会っていない。
メールを送っても返事は来ない。
いつ返せるかも分からない赤色鉛筆。
いつも肌身離さないで持っている。
何時でも返せるように。

由香が俺の袖を掴んで一緒に渡る横断歩道を通る度に彼女を思い出す。

由香の眩しいくらいの笑顔。
由香を抱き締めたときの温もり。
由香の悲しい顔。
彼女の最後の言葉。

¨福富くんの事全部分かってあげられなくてごめんね。¨
何故、そんな言葉を残したのか。
最近そればかり考えていた。

「…チャン?」
聞いたことのある声が…
「福チャン!」
「…!!すまない、荒北。」
呆れた顔をした荒北は深い溜め息を付いた。
「いい加減、由香チャンの事考えんの止めろヨ。
福チャンは振られたんだ、嫌われたんだヨ。」
「由香は俺の事を好きだと言ってくれた。」
「バーカ!友達以上恋人未満とかダロ!」
「だが、友達にすらなってくれなかった。」
「ッー!あー!もう!変な女だったてっ事だヨ!」
「…。」
本当に由香は俺の事を嫌いなのか…?
そんな筈はない…よな…?

荒北は俺の背中を強く叩く
「…!?」
「何時まで暗い顔してんだヨ!
ほら、愚痴なら幾らでも聞いてやッからヨ!」
「荒北…。」
「何時ものファミレスでも行くか!
ついでにあのバカどもも呼んでよ、ナ?」
「すまない…荒北…。」
「気にすんー」

ガシャーーーーーン!!!!!!
荒北の言葉を遮って大きな音が鳴った。
由香と渡ったあの横断歩道の方からだ。

「ああ!?何だ?事故かァ!?」
「この辺は交通量が多いからな。」
荒北はしゃがみ込み転がって来た被害者の物を拾う。
「ここまで転がって来てんじゃねーカ…。
ん…?福チャン…?どうしたノ?」

俺は言葉を発する事が出来なかった。
俺の手は震えが止まらない。
目の前の現実を受け入れたくなかったからだ。



転がってきたのは¨色鉛筆¨だったのだ。








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