心愛と信愛 | ナノ

微かな匂いと温もり


あの日から…。
俺はあの横断歩道を通る度
彼女を思い出す。

「今日も…居ないのか…。」
俺は横断歩道の前で呟いた。
今日は三人とも用事が有るらしく
俺は一人で帰る。
静かだ…。
横断歩道を渡る。

ガッー
「あのっ!」
袖を掴まれる。
俺は振り向く。
「お前…!」
そこにいたのは…
あの時の真っ黒な瞳の彼女。
「また、会えましたね♪」
彼女はニコリと笑う。
「一緒に信号渡ってくれませんか。」

俺達は信号を渡る。
もちろん彼女は俺の袖を掴んでいた。
微かな林檎の匂い…。
「久し振りだな…えっと…。」
「あっ!私、花佐部由香です。」
「俺は福富寿一だ。」
「はい!福富さん♪」
彼女は満面の笑みを送る。

「あの、他の皆さんは?」
「用事が有るらしく今日は俺一人だ。」

「福富さんてっ箱根学園なんですね」
「ああ。自転車競技部をしている。」
「自転車競技部ですか、格好いいですね」

横断歩道を三つ渡る間…。
言葉は3、4言位しか交わせないが
俺には十分だった。

「今日はありがとうございました。
また、会えるといいですね♪」
「ああ、そうだな。花佐部。」
彼女は俺に手を振り
俺の進む方向と別の方向へ歩く。

俺は彼女の背中を見つめ
彼女の掴んでいた袖を掴む。
「花佐部由香か…。」
俺は歩き始めた…。






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