――クリスマス。
それは、多くの日本人にとある悩みを与えるイベント。
誰しもが一度は経験したことがあるであろう…
【クリスマスプレゼント、何にしよう】
相手は誰だって良い。
家族友達恋人上司同僚…。
贈り物をする理由は十人十色だろうが、ほとんどの人間が相手が喜びそうなものを考えるだろう。
これは、歳をとるにつれて難しくなっていく。
…相手と過ごした年数が多ければ多い程。
そんな誰もがぶち当たる壁に、例外なくぶつかっている一人の高校生がいた。
彼の名は、沖田総司。
何事もそつなくこなし大体人並み以上の才能を発揮する天才肌の彼も、この時はただの男子高校生だった。
〜・〜・〜
「…どうすればいいかな」
クリスマスを一週間後に控えたとある日。
沖田は一人街のショッピングモールに来ていた。
目的はただひとつ。
彼最愛の彼女、高崎真尋へのクリスマスプレゼントである。
真尋との付き合いは長い。
今のお馴染みのメンバーと出会う前より、人生の半分以上を共に過ごしてきた彼女とは、当然のことながら毎年クリスマスや誕生日など贈り物をし合う回数は多い。
故に…年々プレゼントを考える時間は多くなっている訳で。
一般高校生の限られた予算で相手に喜んでもらえるものを見つけるのには少々骨が折れる。
その努力を惜しむはずもないが。
去年はマフラーをあげた。
だから今年は違う路線の方が良いかな、などぼんやり考えながら適当にフロアを回るがこれといったものは特にない。
…一応毎年聞いてはいるのだ、本人に。
クリスマス何が欲しい、と。
決まって返ってくるのは「何でもいい」か「●●のケーキ」などどいう雑さ極まりないものばかりだが。
しかしそんな彼女も今年は…とでもなればどんなに良かったか。
『ねえ真尋、今年のクリスマス何が良い?』
『何でもいい』
『…ちょっとは悩んでよ』
『こっちもお前へのプレゼントに悩んでるんだ。自分のことなんて考えてる暇あるか』
『それ喜んでいいか悲しんでいいのか分からないんだけど』
普通のカップルならあり得ない会話だが、これが彼らの常。
むしろ自分のことで悩んでくれているという真尋が沖田は可愛くて嬉しくて内心悶えているのだから手に負えない。
『大体私今年は本当にお金ないから』
『…だから止めたのに』
『うるさい』
そう、真尋は先日部活帰りに寄ったゲーセンで平助と共にシューティングゲームに熱くなりすぎて二人して財布を空にしたばかりである。
近藤さんへのプレゼント代は別にしていたことだけが彼女にとって救いだろう。
『大体そういう総司は何がいいんだよ』
『僕?僕はね…』
彼女の財政状況と己の欲しいものを頭の中でクロス検索させてみる。
そこで引っかかったのは――
『真尋』
『へ?』
『真尋が欲しい』
にっこり。
そう自分でもわかるくらいの音が合いそうな顔を本気で引きつっている真尋に向ける。
『…大切なことなので聞いておきますがそれはどういう意味で……?』
『え?そこ聞いちゃう?照れるなあ、もちろ『ああああああああ、いい!言わなくていい!てか言ったらしばらく口きかない!』
『それは困るなあ』
『総司が口を開かなかったら問題ない』
そうつっけんどんに返してから、真尋は何かを考えるようにピタリと動きを止める。
『…てかそれ、あげれないわ』
『あれ?なにそれひどくない?』
『だって、』
ずいぶんと前からあげてると思うんだけど?
そう先ほどの自分と同じ顔でこちらを見て告げる真尋に、沖田はもう降参するしかなかった。
「全く…何年経っても真尋のああいうところには慣れないな」
思い出し笑いをこらえ、沖田は呟く。
今も【昔】も、自分をこんなにも振り回すのは彼女だけだろうと確信している。
本当に、真尋はかけがえのない存在だ。
彼女がいれば、これからもずっと退屈な毎日なんて来ないだろう。
そこまで考えて、沖田は歩みを止めた。
(ずっと一緒…?)
沖田は目を見開く。
そうしてからくるりと体の向きを変え、とある店へと足早に向かう。
考えたことがないわけではなかった。
いずれはそうなるのだろうと。
今更な感じもするが、それは仕方がない。
きっと、このぼんやりとしたものは、真尋にだってあるだろう。
それを、僕は形にすればいい。
止まることなく辿り着いたのは、ストーンアクセサリーの店。
女性客が多い店内に迷うことなく入った沖田が向かったのは、キラキラと輝く指輪が並ぶ一角。
――僕には君しかいないように、君には僕しかいないでしょ?
そう心の中で語りかけながら、沖田は店員を呼ぶ。
「すみません、ちょっと指輪作って欲しいんですけど…」
これを渡したとき、君はどんな顔を見せてくれるんだろうか。
きっと、こんなのは予想もしていないだろう。
驚いてそのまま泣いちゃったりしてくれたら僕的にはしてやったりなんだけど。
そんなことを考えながら、沖田は一日練習試合のクリスマス当日を迎える。
彼の予想がどうなったのかは――それはまた別の話である。