公共電波でいちゃつき禁止



「レッツ、ショッピ〜ングターイム!!」


そう声高らかに宣言した私に、総司が呆れた様な口調で言う。


「真尋はしゃぎすぎ」
「いやいやはしゃぎたくもなるでしょ!!」
「明日の買い出しするだけじゃない」


明日の買い出し――それこそが今日の目的なんだけど…


「私達は買い物だもんねー千鶴?」
「はい!先輩!!」


私達女組は、ある物を買うために、皆と別行動だったり。
そのある物とは……水着。
てかそもそも、明日の買い出しとは何か。
実は私達、明日から2泊3日で海に行くのだ!!


折角の夏休み、しかも今年は千鶴が私達が通う薄桜学園に入学してきた年でもあって、近藤さんがこの旅行を計画してくれた。
明日の昼前には向こうに着く予定で、そのまま浜辺でバーベキューの予定になっている。
泊まる所は海辺のコテージらしく、今日はバーベキューの材料や滞在中に必要なものを買いに来た。
そして私達は先程も言った通り、水着を。


「真尋、千鶴に可愛いの選んでやれよ」
「やだなぁ、言われなくても分かってるよ。左之さんも腰抜かすぐらいの奴選んでくるから」
「真尋先輩…!」


千鶴は中学校指定の所謂スクール水着しか持っていないらしく―これに関しては確実に筋金入りのシスコン薫の仕業だと思う―恥ずかしがる千鶴を全員で説得して、ちゃんとした水着を今回買う事にした。


私は去年着たのがあったんだけど………


「そういえば真尋は、何で去年のは着ないの?」


そう、着ない。
理由は……うん。
あんまり認めたくないんだけどさ。
毎日部活で千鶴と着替えたりしてると…ひっじょーに気になるアレ。


「いくら総司にでもそれは言えない」


というか、言いたくない。
総司に知られたら、一週間はそれをネタに何されるか分からない。
それに…やっぱり…その…ねぇ?
彼氏には知られたくないっていうね?
柄にもない乙女心って言いますか?


「真尋が僕に隠し事なんてねぇ?」
「いやいや、人間隠し事の一つや二つありますって」


私だってしたくねぇよ。
でもこれだけは本当に言いたくないから、お願いだから察してよ馬鹿野郎。


そんな事をひたすら考えてたから、平助に流されるという大失態を犯してしまった。


「あ、もしかして太っちまって入らないとか?」
「いや入らない訳じゃないんだ。でも腰回りがさーちょっと気になるって言うか。あの水着腰殆ど隠れないから……って、え?」


今、もしかして、私は。


「図星かよっ!!」
「何だ?真尋の奴、太ったって事か?」
「お前もそういうの気にするようになったんだな」


あぁぁぁぁ!!!
言っちゃった。
言っちゃったよぉぉ!!
私は頭を抱えて、自分の迂闊さを呪う。
いつもならこんな間違い犯さないのに…!!
そして恐る恐る総司を見てみると……


「へぇ?太ったんだ?」


それはそれは黒いオーラを纏った総司が。


「だ、だから…太ったかな?程度だってば……」
「ふ〜ん?」


そう言って「ん〜」と唸りながら、私の体を上から下まで見る総司。
こうなるって分かってたから嫌だったんだよ…!!


「そうだね。太ったって事を大好きな僕に知られたくなかったっていう健気で可愛い真尋に免じて隠そうとした事は許してあげるよ」
「なっ、寝言は寝て言えよ!!どんな解釈だ!大体それぐらい免じなくても許せ!気にしてんだから!!」


どこまでも総司らしい言葉に涙目になりながら、反論すれば「でも、」と総司が笑いながら付け足す。


「気のせいじゃないかな?抱き心地は変わってないし。むしろ細いんだから、僕としては、もう少しあってもいい」
「〜〜頭大丈夫か馬鹿総司!!一回脳ミソクリーニングに出して来い!!」


前半だけだったら嬉しかったのに!
と、ぎゃーぎゃー騒いでいると、頭を襲う鬼の一発。


「「いたっ」」
「さっきからうるせぇぞ、お前ら!イチャつくなら他でやりやがれ!」
「これのどこがイチャついてる様に見えるんですか!」
「あれ、土方さん僻みですか?」


土方さんは止めに入ったと思うけど、それで私達が止まる訳もなく。
最終的にはにっこり笑う山南さんが入ってきて、慌てて口を閉じた。


「…じゃあ今言った役割で、一時間後に集合だ」


買い出しの役割分担をし、散らばる私達。
私と千鶴も勿論水着売場へと行こうとすると、総司と平助に呼び止められた。


「僕も行きたかったんだけど、今日ばかりは仕方ないよね」
「久々に女の子だけの買い物を楽しみます〜」
「千鶴!ちゃんと嫌なもんは嫌って言えよ?真尋の言う通りにしなくていいからな?」
「平助、それどういう意味かな?」


まるで私が千鶴に有無を言わさず買い物を勧めるような平助の言い方に、むっとする。


「平助君…真尋先輩、すっごくセンス良いんだよ?」
「そうだぞー。言っとくけど、私の見る目は千にも大好評なんだからなー」


時々千鶴と千と買い物に行くと、決まって千のアクセサリーか何かは、私が見立てたり。


「まあ僕はそこら辺は疑ってないけどね」
「おおオレだって別に疑ってる訳じゃねぇし!!」
「はいはい、別にどっちでもいいから。もう行くよ?」


そう言って私が、千鶴の手を引き歩きだそうとすると、総司に呼び止められた。


「真尋」
「なあに、総司」
「僕好みのとびきり可愛いやつにしてよね」
「……絶対嫌だ」




〜・〜・〜




「やばい。千鶴可愛いすぎ」
「そ、そうですか…?」


総司達と別れた私達は、まずは千鶴のを選ぶために嬉々としながら水着を物色していた。
私が勧めた水着を試着する千鶴は、まじで可愛いすぎる。
さすが私。天才だ!


「でも…その……恥ずかしいです…」
「何言ってんの!高校生ならビキニぐらい普通だって!」


恥ずかしがる千鶴を説得し、その水着は購入決定となった。


「次は真尋先輩のですね!」
「そうだねぇ…」


そう言われて私は溜息をつく。
先程も言った通り、去年より腰回りが気になる私。
去年総司が選んだ水着を着ない理由は…紐パンタイプの水着だから。


(あんな体型そのまま出るのなんか着れるか!)


そういう訳で、今年は総司の好みは全面的に無視だ。


「今年はアジアンテイストで行くかな〜?いや、でもこっちも捨てがたい…むー…自分の選ぶのって難しいな」
「先輩、本当に沖田先輩の好み考えなくてもいいんですか?」
「いいんだよ〜。去年はさ、総司と二人で行くからあの水着にしたんだ」


そう、去年は総司と二人きり。
でなければ紐パンなんて履くか。否、履いてたまるか。


「身内に見られるのは恥ずかしいでしょ」
「あ、それは分かる気がします…」


私の場合、昔が昔なだけに女らしい格好はどうしても照れてしまう。
ショーパンとかは平気なんだけどさ。


「あ、先輩!これどうですか?」
「ん?お、パレオか!可愛いし、いいかも!」


千鶴が手に取ったのは、腰にパレオを巻くタイプのビキニ。
これなら腰も隠れるし、トロピカルな感じで海気分も出る。


「んじゃちょっと試着してみよっかな〜」


と試着室に向かおうとした時。
ぶー、ぶー、と携帯が揺れる。
その着信を見てみると…


「げ、総司だ」


私は渋々電話に出る。


「もしもし」
『僕だけど。そっちはどう?平助が千鶴ちゃんの話ばっかでうざいんだけど』


どうやら千鶴の水着が気になってしょうがない平助に頼まれてかけてきたらしい。
電話の奥で「ちょ、言うなよ!総司!」と慌てる平助の声が聞こえる。
そんな平助に苦笑いしつつも、私は自信満々に言い切った。


「千鶴ならまじ可愛いすぎて、平助が見たら卒倒するレベルだよ〜。選んだ自分が天才的すぎて怖くなった」
『だってさ、平助。真尋に感謝してね』


「ち、千鶴は何着ても似合うんだよ!」と騒ぐ平助の声が聞こえる。
私の携帯に耳を寄せていた千鶴も照れて頬を染めている。
いつまでたっても初々しい二人が何だかとても微笑ましかった。


『…で、真尋のは?』
「今千鶴ちゃんが見つけたやつ着る所〜。自分の選ぶのって難しいね」
『…え?こちらの電話って、天才課じゃないんですか?』
「お電話は、使えねぇ課に転送されました」


電話越しの総司のボケを冷静に返す。
だって、自分に合うのって選ぶの難しくない?
いつもは総司が選んできたり、総司が好きそうなのを選んだり……あれ、総司ばっかりじゃん。
うわ…ちょっと引く。
そりゃ好みがかぶってるっていうのが一番大きいけどさ。


『…困ってるなら僕の好み「絶対嫌だ」そんなに否定しなくてもって…まぁいいか』
「え?」


予想に反してあっさりと引いた総司に驚いた。
そんな私に総司はふっと笑いながら『だって、』と続ける。


『考えてみたらさ。今年は二人きりじゃないでしょ?皆に、見せるの嫌だなって』
「………総司」


それってつまりは……


「嫉妬?」
『…真尋?』
「う、ううん!なんでもない!」


そう私によって都合の良い解釈をすれば、いつもより低い総司お得意の無言の圧力をかけてくるような声が返ってくる。
それが何よりの肯定だと知っているから、私の頬はどうしようもなく緩む。


「総司、安心していいよ。パラオ巻くやつ買うつもりだから、足はそんなに出ないし」
『…そっか』
「うん。だから…また二人で行こうね」


そう私が笑えば、総司も笑いながら頷くのが分かる。


(あ〜…何か幸せかも)


電話を切った私は、千鶴の手をひき、今度こそ試着室に向かう。


その足取りは羽が生えたように軽かった。








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