「兄貴」



「あーあ、こりゃ結構なうちみになるぞ…」


あの時腕から地面に転けた私は、土方さんに手当てをしてもらっていた。


「ありがとうございます」
「別に、気にすることじゃねぇ」


そうぶっきらぼうに答えながらも、包帯を巻きつける手は優しさそのもので、実はすごく優しい人なんだと思った。


「たっく…惣次郎の野郎、手間かけさせやがって」


そう舌打ち混じりに呟きながら土方さんは、沖田くん・近藤さんが走って行った方を見つめた。


「沖田くんは大丈夫なんでしょうか……」
「近藤さんに任せておけば大丈夫だ」


手当ての終わった私達は、縁側に並んで腰掛けた。


「お前も帰ってきたら文句の一つや二つ言えよ?せっかく怪我が治ったのに、増やしやがって!ってな?」
「そんなの言えません!」


そう冗談っぽく言う土方さんに、私は慌てて首を振る。


「だって俺が悪いんですよ?」
「何でだ?」
「何でって…俺が何か沖田くんに嫌われる様な事をしたんですよ」


『大嫌いだ』
先程沖田くんに言われた言葉は、分かっていたとは言え私には辛いものだった。
何が原因かは分からないが、面と向かって言われればさすがに堪える。


思わず下を向いた私に、土方さんはため息まじりに言った。



「別にあいつはお前を嫌っちゃいねぇよ」


思わず顔を上げた私は、疑問の視線を投げ掛ける。


「俺にはあいつが、好きなもん取られていじけてるガキにしか見えねぇよ」


ふ、と笑う土方さん。
それでも意味が分からない私はむーと眉を寄せる。
そんな私に土方さんは苦笑いを零しながら、指をさす。


「ほら、来たぜ」


向こうから沖田くんと近藤さんが来るのが見えた。




〜・〜・〜




「土方さんと惣次郎って何だかんだ言って仲良いですよね」
「あ"ぁ?」


洗濯をしていたら、久しぶりに試衛館に来た土方さんを見つけたので言ってみた。
土方さんは思いっきり顔をしかめている。


「そんなに皺寄せたら洗濯しても取れなくなりますよ」
「…本っ当に惣次郎の奴に似てきたな」
「痛い!」


ちっと舌打ちをしながら、頭を叩かれる。
……土方さんには叩かれてばかりな気がするんだけど、気のせいかな。


「で。何でそうなるんだ?」
「いや…俺が惣次郎に押された時のことを思い出してたんですよ」


あの時土方さんが言った事は、正しくて。
惣次郎のことを良く見ていなければ言えない事だと、今更ながらに感心した。


「やっぱり…年の離れた兄貴が無難かな〜」
「おい、勝手に自己完結して何気持ち悪いこと言ってやがる」
「事実ですって」


そう私が一人ごちていると、土方さんは盛大なため息をつく。


「…俺からしたらお前らが兄弟みたいに見えるよ」
「えぇ!?それだったら俺の兄貴も土方さんになっちゃう!」
「俺もお前らみたいな弟は願い下げだ」


私が大袈裟に驚くと、土方さんにきっぱりと言い切られる。


「俺みたいな可愛い弟なんてめったにいないのに…」


そうぶつぶつ言いながら、非難の視線を注ぐと土方さんは少し微笑んだ。


「ま、お前ら二人がこれからも兄弟の様に育っていくなら、兄貴ってのも考えてやるよ」


……だからあんな揉め事は二度と起こすんじゃねぇぞ?
そう笑って私の髪をぐしゃぐしゃにする土方さん。


惣次郎にとったらあれかもしれないけど、私にとっては兄貴なのかもしれない。
そんな事をふと思った。


「でも…やっぱり土方さんが兄貴って嫌かな」


すぐ怒るし。叩くし。





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