拾い物


「あー寒みぃ!!!」

刺すような寒さに身を震わせながら、私は月明かりに照らされた京の街を歩く。
煌々と光を放つ月はいつにも増して綺麗で……妙に心が騒ぐ。
こんな夜は、何か面白いことが起こるんじゃないか――と。

文久三年 十二月。
一ヶ月程前に姿を消した雪村綱道の行方を探る為、私は単身任務へと赴いていた。
羅刹という不確実で厄介極まりない戦力を有している新選組にとって、綱道さんの失踪は頭を抱える問題だ。

しかし、幹部らが捜査するものの、何の手掛かりも出てこない。
もうすぐ監察方にも話がいくだろう。
ここまで何も無ければ、組織的な力が関わっているだろうと思う。
…それが強制的なのか自主的なのかは分からないが。

決して良くない報告を手に、私は屯所へと急ぐ。
途中、視界の隅で見知った気配を感じた。

「…山崎……くん?」
「!!」

びくっと肩を揺らした影はゆっくりこちらを向く。

「その声は…高崎さん?」
「あぁやっぱり山崎くんだ」

何してるの〜?と近づくと、いくつかの死体が目に入る。

「……何があったの」

私がそう眉を寄せると、山崎くんは淡々とした様子で答えてくれる。

「…少し前に、副長から死体の処理を頼まれました」
「……なるほど、ね」

こんな夜に土方さん直々なんて考えられるのは一つ。
脱走した【奴ら】を幹部の誰かが仕留め、山崎くんはその後始末…って所か。
山崎くんの言葉で事を理解した私は、「残念だなぁ」と笑う。

「そんな楽しい事があったなんて…斬り合いになったんでしょ?」
「俺は後から来たので何とも言えませんが、おそらくは…って残念がることじゃないでしょう」
「いやいや残念でしょ。もう少し早くここにきたら、俺が始末出来たのに」
「…戦闘狂みたいな事ばかり言わないで下さい」

呆れた様な山崎くんの言い方に、酷いな、と笑い飛ばす。
「少しは否定して下さい」なんて声がしたが、放っておく。
山崎くんは本当に頭が固い副長大好き人間だから困る。
一くんは可愛げがあるのに。

「さてと。俺もう行くよ……寒いし任務帰りだし手伝わないからね!」
「…分かってます。大体この様な仕事を幹部の方にやらせる訳にいきませんから」

そんな生真面目な山崎くんに手を振り、屯所に向かう。

「あ〜土方さん機嫌悪いだろうな…」


〜・〜・〜


屯所につくと、いつもは誰かしらとすれ違うのに、今日は誰とも会わなかった。
折角帰ってきたのに…と少し寂しくなったが、まあ今の状況では仕方ないだろう。
そのまま土方さんの部屋に向かうと、部屋には灯りが灯っていた。

「土方さーん。入りますよ〜」

私は返事を待たずに襖を開ける。

「……てめぇは返事を待てねぇのか」
「早く寝たいんですよ、俺」

けっ揃いも揃って…と舌打ちまじりの土方さん。
口振りからしてきっと先に総司が何かしたんだろう。
私は土方さんの前に座る。

「で、どうだった?」
「…全くですね。本当に突然消息を絶ってます。娘さんに当てた文も一ヶ月前から出してないようですし…」

私の報告に土方さんは眉間に山を作る。

「…組織的なものが絡んでそうですね」
「…だな」

疲れたようにため息をつく土方さんに、私はそういえば、と話を変える。

「道中山崎くんに会ったんですけど…面白い事があったそうで」
「面白くねぇ事ばかり起こってんだよ」

そう心底忌々しげに零す土方さんは、私に今の状況を教えてくれた。

「…綱道さん探し、急がないといけませんね」
「まぁな。こうも血に狂われちゃ使いものにならねぇ」
「それに…拾い物もしちゃって」

偶然その場に居合わせたという少年。
今は空き部屋に放置しているという。
本当にその運の無さには同情するけれども…

「勿論殺すんですよね?」
「…何を見たかによるな」
「本気で言ってるんですか?ちょっとでも見ちゃったなら始末しとかないと後々面倒ですよ」
「だから状況次第だ。明日の朝飯の後、詰問するからお前も来い」

土方さんの言葉に私はうなだれる。

「えー…俺ゆっくり寝たいんですけど。起きれる自信無いんですけど」
「……子供じゃねぇんだ。んな馬鹿な事、言ってんじゃねぇよ」
「多分寝坊します」
「そん時ぁ朝飯抜きだ」

そんな酷すぎる事を言う土方さんに、舌を思い切り出して部屋に帰る。
途中総司の部屋に寄ろうかとも思ったが、部屋が暗かったのでやめておいた。

「寝過ごさないようにしなきゃ…」

任務明けで朝飯抜きは流石に嫌だ。
私は根性で起きようと誓い、布団に入った。



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