2周年企画 | ナノ

12

終わってみれば、作戦は大成功だった。
あの場にいた浪士二十三名のうち、十四名斬って、四人に重傷を負わせ、残り五人を捕縛。
新選組の被害は、私が多少身体や顔に痣を作った程度。
包囲網を抜け出した浪士達に備えて詰めていた新八や一君も容赦しなかったようで、一人の取りこぼし無く手の内に収めたのだから、上出来すぎるくらい。
私は怪我もしたし、女の格好で随分不自由もしたが、作戦としてはいい結果に終わったからまあ良かったと思う。
けど、なぜか皆はそうでもないらしい。


「女を蹴る殴るなんて武士どころか男のやる事じゃねえ。俺が女の扱いってもんをじっくり説教してやる!」
「一番説得力無い奴が言っても仕方ねえからな。俺も混ざるぜ」
「二人とも、説教もいいけど一番は僕に譲ってね?僕の真尋に傷つけたことの意味、思い知らせてやるんだから」


とかなんとか言って、浪士を放り込んだ倉に、新八と左之さんと総司が壊れた竹刀や何に使う気なのか判らない道具を持って笑顔で向かっていったり。


「石田散薬は打ち身によく効くから、嫌がらずにちゃんと飲め。こらっ、逃げるな」


一くんがいつもの【万能薬】を逃げる私にひたすら勧めて来たり。


「俺もすげえ腹立ってるし、総司達に混ざりたいけど、お前も大変だもんな」


平助が、乱暴された時に壊れたものの代わりにと、櫛や簪を買ってきたり、一着は持っておけと女の着物を新しく見繕ってきたり、金平糖だの団子だの色々買ってきてくれたり。
全く、皆どうしちゃったんだか。


そんなこんなでドタバタしていたが、数日後には尋問の成果か浪士の口からさらに過激派の名前とその動きが割れ、大収穫だと土方さんは喜々として隊士を率いて自ら出動していった。
因みに痣だらけで帰ってきた私を見て千鶴ちゃんは、半泣きで手当てをしてくれた。
今では細かい身の周りのこともしてくれるし、毎日白粉を圧塗りにしてもとうてい誤魔化せない顔の痣を「やらないよりはマシです」と言って綺麗に化粧してくれたりと、何かと助けてくれている。


そして、色々なことが落ち着いてから開かれた幹部会議で私は、今回の一件、鬼の不知火が絡んできて、あちらも様々な事情で過激な下っ端を始末したい都合上、何かとこちらの動きを見て見ぬふりをし、助けてくれていたことを話した。


「あいつがいなかったら俺が一人で先に暴れてるところでした」
「…ここは一応不知火に感謝…か?」


更に私は特別報奨金と痣が隠せるまでの巡察や隊士の稽古といった任務の免除を得た。
別に気にすることはないと言い張ったが、


「お前は任務だから覚悟の上だったかもしれないが、俺やここに来ていた皆の男としての矜持がこれを許せねえ」


と一蹴されてしまった。
見るからに痛々しい、変色した痣。治りかけとはいえ不様なまだらになった顔や身体。
いかに日頃男装していて腕っぷしも強いとはいえ、男の傷とは訳が違う。
こんなものを作らせておいて、完全勝利などと言えるものか。
まさか堅気の女に手荒な真似はするまいと思っていたのに、『幹部憎けりゃ関係者まで憎い』にまで高まった新選組への恨みの深さと不逞浪士どもの狂暴性を読み違えたばかりにこんなことになった。


そう語る土方さんに何も言えなくなり、私は渋々頷いた。
まったく、突然こんな女扱いさせたらどうしたらいいか分からないっての。


「いずれ消えるものをいつまでも気にすんなって感じなんですけどね」


むしろ、ちゃんと女に見えていたからああいう目にあったと褒めて欲しいんですけど、と笑えば、皆から盛大なため息をもらってしまった。


「お前って自覚無いのか?」
「何を」


呆れ返っている左之さんの言葉に首を傾げると、隣の総司が口を開く。


「ちゃんと女に見えたどころか、それぞれの好みの部分を引いてもかなりの美人だってこと、真尋分かってないでしょ。化粧も、女物の着物も、髪結い上げたのも似合ってた。島原に潜入したときのこと、もう忘れた?」


総司からぽんぽん飛び出す褒め言葉に、私は目を丸くしてしまった。


「えーっと、何?褒められてる?怒られてる?」
「両方だ、馬鹿」


部屋に何とも言えない空気が立ち込める。
…うん、とりあえずすっごく心配してくれてることは分かった。


「俺、女の格好も全然いけるんですね。もうしたくないけど」
「僕の前ではしてね」
「寝言は寝て言え…ったく、俺が何言ってもその辛気臭い顔は直らないんでしょ」


私の言葉に、皆が微妙な顔をする。
なーんでこんなにこの人たちは女に甘いのか。
いや、単に男って矜持ってのが面倒なのかな。
まあどっちにしろいつまでもこんな顔されてちゃこっちが困る。
そういう訳で、私はある提案をした。


「じゃあ体を張った俺みたいに、皆も体張って下さい。そうしたらチャラでいいでしょ?もーずっとそんな顔されてたらたまったもんじゃない」
「…体を張るって具体的にはどういうことだ」
「簡単ですよ。俺のお願いを聞いてくれたらいい」


そうにっこり笑った私に、総司を含めた皆が顔を引きつらせる。
そんな皆を見て私は更に笑みを浮かべ――。


「今度島原で宴会開いて、そこでみんな花魁になってもらいまーす」


見たいとは思わないけど見てるこっちは楽しいだろーなーという完全に好奇心に任せた【お願い】を口にした。




〜・〜・〜




数日後、島原の某遊廓において、恐るべき計画は実行に移された。
隊士慰労の席上での振り袖を着用した幹部隊士の登場は、平隊士たちに多大な衝撃を与え、宴の席は大変な事になった。
そんな宴の最中、言いだしっぺである真尋は自分の提案を後悔することになる。
腹をくくった奴の悪ノリって怖い。
この日の宴会は、新選組史上最も過酷な宴として、各隊士の胸に刻みつけられたのだった――。



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