夢の終わりに



この函館の地――五稜郭で私達の長い長い戦いは終わった。


二年前の明治二年、五月。


新政府軍による函館総攻撃により、私達は降伏。
桜咲き誇るこの場所で、私達は土方さんと風間の決着を見届けた。
ボロボロだった土方さんが意識を取り戻した頃には、全てが終わっていた。
最後まで戦い抜いた土方さんは、大鳥さんの配慮で死亡扱いになった。
そしてそれは――千鶴ちゃんを含めた、私達も。
正直、幹部の中でも早くから羅刹となってこの戊辰戦争を戦ってきた私や総司、平助は、ここまで生きてこれたこと自体が奇跡だと思う。
そして私達は、もうこれ以上歴史に存在してはならない存在。
それが分かってるからこそ、私達は大鳥さんの提案を受け入れ、敗戦の処理には関わらず、とある山奥の人里離れた場所で暮らすことになった。
大鳥さんには、感謝してもしきれない。
そして彼は、降伏前に私達に秘密で、とあることをやっていた。
それは………


私達が、再び同じ場所に集えるように。
それぞれの道で戦っていた――新八や左之さん、一君をこの函館へと。


一体どんな手を使ったんだと心から思う。
これに関して大鳥さんは、「細かい所は気にせずに、後のことは僕らに任せて」と笑っていた。
そんな彼に私達は頭を抱えるが、本音を言えば有り難い。
勿論皆に会いたいという気持ちもあった。
しかし何より。
千鶴ちゃんのことを考えれば……周りに“人間”がいれば安心だ。
幸い新八達は大鳥さんの提案を快諾してくれたらしいし。
そんなこんなで、私達は……再び同じ時を過ごしていた。





「真尋」
「総司?」


ぼんやりとした思考を断ち切ったのは、総司の声だった。


「そんなところでぼーっとしてたら風邪ひくよ?」
「大丈夫だよ。もう春だし」


そういう問題じゃないでしょ、と呆れながら私を引き寄せる総司。
京にいた頃より随分薄くなった胸板に、体を預ける。


「何考えてたの?」
「んーよく皆集まれたなって」
「……色々あったもんね」


そう、色んなことがあった。
たくさんの…本当にたくさんの別れ。
何度死んだ方がマシだと思っただろう。
それでもここまで来れたのは――紛れもなく、総司がいたから。
もう剣を握る理由が無くなった私達は、ただこの二人寄り添える幸せを大切にしていくだけだ。


「僕は…もう真尋さえいてくれればいいよ」


どうやら同じような事を考えていたらしい総司の言葉と、額に落ちてくる口付けに目を細める。
するとそこに聞き慣れた声が二つ。


「おら。そういうのは後でやれ」
「真尋を呼びに来た総司がそんなのでどうするのだ」


左之さんと一君である。
どうやら夜飯が出来たと私を呼びに行った総司の帰りが遅いことに痺れを切らしたらしい。


「ごめんごめん。今行くよ」


二人に苦笑いを返しながら、私は総司から離れる。
そうして私達は、夜餉待つ場所へと向かった。




〜・〜・〜




「いただきまーす!」
「おら!頂きぃ!!」
「あー!新八っつあん挨拶中におかず取るとかありえねえ!」
「新八。平助の言う通りだ。食事の始まりの挨拶を疎かにして「ちょちょちょ、一君も何言いながらさりげなく取ってんの!!」


千鶴ちゃんが作ったご飯を囲んで始まる食卓は、昔とあまり変わらない騒々しさだ。
この三人の争奪戦はいつまでも終わらないんだろうな。


「相変わらずだな、あいつらは」
「たっく…いい年した男が何やってんだか……」


そして呆れたような顔で見守るこの二人も変わらない。


「…卵焼きに葱入ってる」
「す、すみません!!」
「…総司。それぐらい食べれるようになれ。それに、千鶴ちゃんも謝らなくていいから」
「は、はい!すみません」
「…………」


何だか昔っから謝ってばかりな気がする千鶴ちゃんに、思わず笑ってしまう。
こんな何気ない食事風景でも、はっきりと幸せだと感じてしまう今日の自分は、一体どうしたのだと言うのだろう。
この穏やかな時間こそが、私達がたどり着いた――夢の終わりなのだ。
そんな、感傷が胸を支配する。
………本当に、何があった。


「何か今日の真尋変だよ?」
「そうだぜ?あんまり食も進んでないしよー」


自分でも掴みかねている違和感に、皆が反応する。


「んー自分でも分かんない。ただ何となく食欲は無いような…?」
「え!それは大変です!!」
「何だ風邪かあ?」


お、おかゆ作りましょうか?と慌て出す千鶴ちゃんに、訝しげに呟く土方さん。
自分的には風邪っていう感じでもないんだけど…。


「ちゃんと布団かけてるか?」
「いや、左之さん。子どもじゃないんだし」
「総司に布団取られてるとかは?」


平助の言葉に、思わず動きを止める。
いや確かに布団は一緒だからあり得る話ではあるんだけど。


「それは有り得ないね」


私が口を開くより先に、総司が答えた。


「何でそんなに言い切れるんだよ」


そう不思議そうに首を傾げる平助に、「いやあ、それは」と言葉を濁す。
しかしその時、「だって、ねえ?」と総司がそれはそれは綺麗に笑いながら――私を抱き寄せる。


「んなっ、総司!離せ…」
「いつもこーんなに引っ付いて寝てるし?布団がどっちかに片寄るなんてことは起きないよねー」
「ばっ、皆の前で何してんだ!!」


総司の言っていることは、正直言って事実である。
だからこそ…ちょっと恥ずかしいんだって!


「そうかよ…」


平助の疲れたようなため息を聞きながら、私は未だに腰に回った総司の腕から逃れようと足掻く。
そんな時。


ドクン、と。


僅かな鼓動が、身体に響いた。


「真尋?」


急に動きを止めた私の顔を、総司が心配そうに覗き込んでくる。
しかし私はそれに構わず、自身のお腹に手を当てた。


(今のって……)


――確信なんてない。
ただの気のせいかもしれない。
それでも…そうなんじゃないかって。
そんな直感が、あった。


「総司」


不意に目頭が熱くなって、私は隠すように総司の胸に顔を埋めた。




たしかにここは、夢の終わり。
でもそれは――新たな夢の始まり、なのかもしれない。






***


平助達と同時期に羅刹となり、幕末を生き抜いた設定。
この場合千鶴ちゃんは一体誰とくっついたのやら。
きっと夫婦は部屋(又は家)は皆から離れてそうです。
いや、だって、ね?(笑)


沖真でもしも皆が幕末を生き抜いてまた一緒に暮らしていたら。
というお話でした。
考えたこともなかったので、これまた新鮮でした。
大鳥さんすごいですね(笑)
彼に関して色々調べたりしましたが、本当に優秀な人でした。
興味ある方は是非。


「夢の終わり」は随想録での泣けるあのエピソードからです。
彼女にとっては「皆で京で一旗上げる」という上洛前からの皆の想いの終着点でしょうか。
原作沖田ルートは、幸せなはずなのに切ない終わり方(まぁそこがまた惹かれる理由なんですけども)なので、うっすら希望を残す形にしてみました。
い、いかがでしょう・・。
これもこの企画だからこそ出来(ry


企画参加ありがとうございました!





back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -