本当の恋敵は・・





新選組――京を騒がす不逞浪士を取り締まる剣客集団。
彼らは人斬り集団として、浪士だけでなく民からも恐れられている。
しかしその一方で。
副長の土方を筆頭に一部の隊士達は島原などでは「美形」としても有名である。
芸妓の中で本気になって文を送る者も少なくない。
しかし彼らは、誰一人として特定の女を作らない。
その理由は様々な憶測を呼んでいるが――真相は極めて簡単。


想い人がいるのだ。彼らには。


その上全員が同じ人物に想いを寄せてるなど誰が思うだろうか。
そしてその想い人は……これまた特殊な人物。


新選組幹部、高崎真尋。


世間では天才剣士と名高い剣豪――しかしその実、正真正銘の女という…稀有すぎる存在だった。






「なー真尋のやつまた恋文貰ってやがったぜ」
「あいつがもてんのは、今に始まったことじゃないだろ」
「試衛館のときから恋文は貰っていたな」
「女の子なのにねー」
「それは俺達しか知らないから仕方ねえよ」


昼食後の広間でそんなことをぼやく――藤堂、原田、斎藤、沖田。
そして黙ったまま茶をすする土方。
彼らは江戸にいた頃から女にもてていた真尋の常を、なんとなしに思い浮かべる。


「…あいつちょっとでいいから、女らしいとこ増えねえかな」


そう眉を下げながら呟くのは藤堂。
そんな彼に即答したのは彼女に最も近い沖田だった。


「真尋に女らしさを求めても無駄だよ」


そこに斎藤が続く。


「真尋は女の目線で物事をみれないと言っていた」
「ね?」


そんな彼らの会話にしみじみと言ったのは原田だった。


「…ま、あいつに好きな男でも出来たら変わるだろうよ」
「………」


その言葉に落ちる沈黙。
各自考えることはあえてここでは触れないが……


「何か真尋ってさ、好きなやつ出来てもあんまり変わらないと思うのは俺だけ?」


ここでもまず口を開くのは藤堂だった。


「…男装のこともある。そっちの方がいいだろう」
「だな。そんなことをとやかく言う男には、あいつも惚れねえだろうし」
「いやそうだけどさ!でもよ…」


斎藤と原田の言うことはごもっともだが、もうちょっと何かないのかと複雑な男心が顔を見せる。
それに対して、沖田はきっぱりと言い切った。


「僕は変わると思うよ」


その言葉にどういう意味だ、と一同が視線を向けても、沖田はにっこり笑うだけ。


(だって真尋は努力家だもんね)


そんな心の声は勿論沖田にしか分からない。
そして広間には微妙な空気が流れるが…それを壊したのは口を閉ざしたままだった土方だった。


「おいお前ら!あいつの立場も考えろ!たっく…お前等がそんなんでどうする!!」


【副長】の言葉に誰もが言い返せない。
…土方は今のこの状況に頭を悩ませる一人である。
他の人物を上げれば山南。
彼らは新選組二大秘密の一つである真尋に一番近い彼らが一番――本人よりも真尋を女と意識していることを色んな意味で嘆いていた。
それと同時に…一応は紅一点である、幼い頃から見続けてきた真尋を心配する兄貴分――といったところでもある。


再び微妙な空気が覆い始める広間。
しかしそこに、二人分の軽快な足音が近付く。
その足音は広間の前で止まり……


「…っと、皆こんな所にいたのか」
「真尋?…それに千鶴ちゃんも」
「こ、こんにちは…」


噂をすれば、と言うのが相応しい人物…真尋と千鶴が現れた。


「どうしたんだ?」
「今から二人で出かけるんだ」
「二人で?」
「うん、近藤さんが千鶴ちゃんに京の紅葉を見せてこいって」


真尋の言葉に抱いた思いは皆同じだろう。
しかしそれを口にするよりも早く、真尋は土方に告げる。


「そういうことで、土方さん。行ってきますね」
「ああ」


どうやら事前に知っていたらしい土方が頷くと、真尋は千鶴を連れて広間を出ようと
する。
そんな二人の背中に藤堂と沖田が声をかける。


「ずりーよ!俺も行きたい!」
「僕も行きたいなあ」


しかし真尋がそんな我儘を聞くはずもなく。
顔だけを沖田達に向けて言う。


「だーめ。これは俺と千鶴ちゃんの逢引き、だからさ?」
「あ、逢引き!?!」


…そう片目を閉じて形の良い唇をにっと上げる真尋は誰が見ても【美形の顔】で、彼らにとってはつい見とれてしまうものだが。
真尋の正体を知っているはずの千鶴でさえ頬を染めるそのたらしっぷりには、眉を下げる他無かった。


「あれ、千鶴ちゃんは嫌なの?」
「い、いいえ!そんな訳では…」


ならいいじゃない、と楽しそうに笑いながら、真尋は千鶴の肩を抱いて今度こそ広間から出て行く。
沖田達は彼女達が出て行った方を見ながら…

「俺最終的には千鶴が一番の壁な気がする」
「…かもね」


そう力無くぼやくのだった。




***



皆が真尋のことを好きだったら(恋愛対象として)の雑談。
・・・完全敗北です。
そして土方さんと新八だけはどうしても真尋相手にその方面は考えられなかった・・。
この場合新八は、おいお前らいくら真尋といえどもあいつも意思も尊重うんたらかんたらの兄貴分ポジなんじゃないかと。
いつもどつかれてるのに、いい人です。
真尋は千鶴ちゃんルートに入るんじゃないかなぁ・・(え!)


肩を抱かれながら幹部の方を振り返る千鶴ちゃんが「いいだろお前ら」的なにやり顔だったらそれはそれで楽しいなと思いましたが、それは千鶴ちゃんじゃなくて薫くんでした。反省。


企画参加ありがとうございました!







back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -