私だけのお姫様は・・・




楽しかった旅行も終わり、時は八月上旬。
夏休み真っ只中の今、薄桜学園は文化祭の準備で賑わっていた。




「剣道部の企画ね〜…」


部活の後の心地よい疲労感を感じながら、私は呟いた。
今は部活後のミーティング。
いつものメンバーと顧問の左之さんと新八。
因みに土方さんは今日は不在だ。
今日の議題はただひとつ。
文化祭の剣道部としての企画をどうするか、だ。


「別になんだっていいんじゃない?」
「えー私去年の喫茶店みたいなのは嫌」
「あーお前はな…」


去年の文化祭の疲労感が蘇ったようで、私はげんなりとする。
ほんとにひどい目にあった。


「そうだね。あれは真尋が危険」
「やらせたのはお前だろ」


そう去年の発端となった総司に、私は肘鉄をくらわせる。
脇腹を押さえる総司の横で、千鶴がおろおろしながら言う。


「な、何があったんですか…?」


…去年は千鶴、いなかったからな。
平助が「実は…」と説明し出すのを聞きながら、私も当時を思い出す。


去年私達剣道部は、喫茶店をやった。
何を思ってか、執事の格好で。
勿論私も――その予定だったのに。
何と総司の発案で私だけその…所謂、メイド服、というものを着たのである。
当日まで何の話もなく、時間になって「真尋はこれね」と渡されたのだ。
加えて薄桜学園は元男子校。
私の学年から共学になったせいか、当時の女子生徒は私だけ。


――それはもう、鬼のような忙しさだった。


そんな中にメイドな私。
女らしさの欠片もない私も、この時ばかりは自分は腐っても女なのだと思った。
どれだけ大変だったかは、想像に任せる。
でもこれだけは言わせてくれ。


私はもう、あんな服着ない。


それに今年は千鶴もいる。
去年よりも危ない。


「まあその分売上一位だったんだからいいじゃねえか」
「私がやったんだ。それぐらい当たり前」


他人事のような口調の左之さんを、きっと睨む。


「あん時の真尋は真尋じゃなかったもんな」
「何だその言い方は、新八」
「学校では先生つけろ!」


新八を無視してそっぽを向くと、事情が分かったらしい千鶴が申し訳なさそうに言う。


「でも真尋先輩…見てみたかったなぁ…」


いやいや、見せるもんじゃないよ。
そう思いながら苦笑いを零せば、またこいつから余計な一言。


「僕まだ写メあるよ」


…何であるんだ、この野郎。


「なっ、早く消せ総司!」
「嫌だよ、可愛いもん」


人生の恥なんだぞあれは!と総司の携帯を奪おうとしたとき、平助が思い出したように鞄から一冊のアルバムを取りだす。


「写真と言えばさー、旅行の写真できたぞ」


その言葉に、動きを止める。


「え!まじ?見る見る!!」
「いやでもよ、このアルバム、」


すぐに食い付いた私を制して、平助はパラパラとアルバムを捲る。


「…………」
「…………」
「途中から真尋ばっか…」


私はわなわなと震える拳を握る。
隣で左之さんが小さく呟いた。


「後半カメラ持ってたのって…」
「………総司」


私は確信を持って犯人を名指す。
しかし当の本人は、何てこともないように笑い…。


「ん〜無意識だね。まあ僕の愛だと思ってもらえれば」


そんなことをしれっと言う。
その言葉に私は勿論噛み付くのだが…。


「お前な…!そういうことは「もういいか?」は、一君…」


ずっと黙っていた一君に、遮られた。
しかも、結構怒ってるときの声で。


「写真の話は後にしろ。総司は空気やを読め。今は文化祭の話だ」


その言葉に、誰からともなく「あ、」と呟きが漏れる。
そうでした。今はミーティングだった。
静かになった私達を見て、一君は溜め息も吐いてから話し出す。


「真尋の件もあるし、今年は雪村もいる。なので今年はあのような形での企画はしないと土方先生から聞いている」
「それじゃあ何にするんだ?」


皆が一君の言葉を待つ。
一君は私達の顔を見回し……


「演劇だ」


衝撃的な一言を言うのであった。


「は?」
「演劇?」


意外なその言葉に、私達は目を丸くする。


「そうだ。ステージ企画なら去年のようなことにはならない。よって今日のミーティングはその演目の決定をするまで終わらん」


い、いや納得は出来るけど…


「私達が劇するの?」
「ああ、そうだ」


で、出来るのか…?
今から出来るのか?
え、まじで?


「ちなみに演劇は顧問も参加可能になっている」
「お、俺達もか!?」
「無論だ」
「な、なんてこった……」


それぞれが愕然とする中、総司だけが「んじゃ早く決めちゃおうよ」とやけにノリノリである。
正直嫌な感じしかしない。


「僕は昔話がいいと思うな」
「昔話?」
「うん。だって剣道部だし」


その何とも言えない説得力に、私達はつられて考え始める。
最初に口を開いたの平助だった。


「桃太郎は?」
「桃太郎?」
「ああ、ベタだけど昔話って感じだし!」


ふむ、と頷いてとりあえず配役を考えてみる。


「桃太郎は総司でいいんじゃないかな?」
「僕?」
「うん。だって他にそれっぽいのいないし。おじいさんは近藤さんでしょ」
「近藤さんは出ていいのか?」
「いいでしょ。学園長特別出演で」
「まあいいなら別にいいけどよ」
「そう考えたらおばあさんは土方さん」
「ちょっと待った」
「何総司」


桃太郎な総司は、心底嫌そうな顔で言う。


「おじいさんが近藤さんなのはともかく、土方さんがおばあさん?それはちょっと勘弁してほしいな」
「何でよ。完璧じゃない。キジは左之さん、猿は平助、犬は一君」
「平助はともかく俺がキジか?」
「なっ、どういう意味だよ左之さん!」
「俺が犬…。意外な配役だな」


三者三様の反応を見ながら、私は続ける。


「鬼は土方さんでいいか」
「ま、まさかの二役…」
「鬼教師だからね」
「ってことは残る姫は千鶴?」
「真尋でもいいんじゃない?」


二人の言葉に、私はふるふると首を横に振る。


「千鶴に姫なんてやらせるわけないだろ?可愛すぎてシャレにならない」
「じゃあ誰がすんだよ!」


その言葉に、私はニヤリと笑いながら、彼を指差した。


「新八」
「「……は〜〜〜!?」」


うん、皆予想通りの反応ありがとう。


「姫!?新八が姫!?」
「な、なんで俺が…!!」
「ふは、ふははは!!筋肉達磨の新八っつあんが姫とか絶対嫌だ!!」
「真尋、ちょっとそれは悪趣味すぎない…っ?!」


新八は顔を真っ赤にしているが、他の皆は腹を抱えて爆笑。
私も自分で言っときながら、想像したら気持ち悪くて仕方ない。


「ちょっと悪趣味だったかも。ふは、面白いけど気持ち悪い」
「絶対助けたくないね」
「うん、気持ち悪いもん」
「お前が言ったんだろ?!」


顔を真っ赤にして怒る新八をよそ目に、気持ち悪りぃー!と散々皆で笑った後、この話は却下となった。


「そういえば真尋と千鶴ちゃんは何するの?」
「私は監督。千鶴はナレーター」
「…千鶴ちゃんはともかく、何監督って」
「出たくないもん」
「………」








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