第七話「アッチョンブリケ」


生まれて間もないのに、ピノコは歩く練習を始めた。

ピンク色のパジャマを着て

診療所を壁伝いに歩いていく。

「あ!」

壁に掴まりながら歩いていたら

よろけてしゃがみこんでしまうピノコ。

そんな様子を未来は心配そうに見て

ブラックジャックは気にしないのか新聞を読んでいた。

「ピノコちゃん!」

「やめろ、未来くん!」

見ているのが辛くて

ピノコに駆け寄ろうとした未来に

ブラックジャックは厳しい声をかけた。

ピノコの数歩手前で

未来の動きがピタリと止まる。

「でも…」

「私も厳しいリハビリを受けたんだ。

ピノコ、助けてもらおうなど思うな」

「あ…」

ピノコはブラックジャックの言葉が分かったように

再び歩き始めた。

「…」

それを複雑な思いで未来は見守った。


一年後、ピノコは走り回れるようになり

言葉も覚えた。

しかし

「ちぇんちぇー!」

「先生だろう?

そんな舌足らずでは赤ん坊と一緒だ」

「私はかわいいと思うけど」

ブラックジャックに嬉しそうに駆け寄るピノコに

ブラックジャックは苦笑し

未来は微笑んだ。

「アッチョンブリケ!」

すると突然ピノコは自分の両ほっぺたを押して

そう叫んだ。

「なんだい、それは?」

「あ、面白そう!」

ブラックジャックは戸惑ったが

未来は笑った。

「未来もやるのよさ」

「うん!…アッチョンブリケ!」

「アッチョンブリケ!」

診療所は笑いで包まれた。

「全く…にぎやかだな」

そう言ったブラックジャックも

穏やかに微笑んでいた。

(本当に未来くんが来てくれて

よかった)

こっそり心の中でブラックジャックは

未来に感謝をした。

笑いに包まれた診療所の中で

三人とも幸せな気持ちだった。


to be continued