第一話「出会い」


「やめて!」

夕暮れの中、川辺で少女の悲鳴が響いた。

でも人通りが少ないから助ける人はいない。

「返して!

それはお母さんからもらった大事なものなの!」

泣きそうな声でそう叫んだ少女の名前は未来。

必死に手を伸ばした先には

星の形をした銀色のペンダントが

夕日を反射してキラリと光った。

「返して欲しければ、とってみろよ!」

「そうだそうだ!」

男は大学生で二人。

未来の知らない人だった。

川辺を歩いていたら、いきなりペンダントを

奪われたのだ。

そして未来はどうしても

ペンダントを返してほしかった。

でも力では女は男に勝てない。

未来は絶望していた。

「返してってば」

そう言って未来はペンダントを求めたが

「やーい!悔しいか?」

茶髪の男が楽しそうにペンダントを高く持ち上げた。

未来より男のほうが背が高く

取り返すのは不可能だった。

こらえていた未来の瞳に涙が浮かぶ。

「おい、お前ら」

すると新たな声が聞こえた。

未来が声のしたほうを振り返ると

そこには黒いTシャツを着て

ヘッドフォンを首にかけた少年がいた。

今風の人だな、なんて未来は思った。

「そんなに泣いて返して欲しがってるんだ。

いい加減、返してやれよ」

現れた少年は未来の方を見ずに

いじめている男たちを毅然と言った。

凛とした男らしい声だった。

「偉そうに言うんじゃねえよ」

「そうだ、お前には関係ないだろ?」

男の一人が現れた男の胸ぐらをつかんだ。

しかし少年は動じずに

男の手をつかみ、にやりと笑った。

そしてそのまま男の手をひねり、地面に叩きつけた。

少年より未来をいじめた男達の方が

体格はいいはずなのに

少年の力は圧倒的だった。

「すごい…」

自分ではできないことをやった少年に

未来は感心していた。

これなら返してもらえるかも、と

未来は期待してもいた。

「返せって言ってるだろ?」

先ほどより低い声で少年が言った。

そこまで言うと、男達はペンダントを投げ捨てて

悔しそうに逃げて行った。

それを見届けてから少年はペンダントを拾い

星のモチーフについた土を払った。

「ほら!」

そのまま少年はペンダントを未来のほうへ

ぶっきらぼうに投げた。

未来は慌ててそれを受け止める。

「あ、ありがとう!」

未来はペンダントをぎゅっと握りしめた。

奪われたペンダントが返って来て

未来はただとても安心した。

「今の奴ら…グレるりんが…まあ、いいか!

お前さ、かわいい顔してんだから気をつけろよ?」

「え?」

そんなことを言われたのは初めてで

未来の頬に熱が集まった。

それを見て少年も照れる。

「なんだよ、かわいいと思ったから言ったんだよ」

未来に見つめられて更に少年は照れた。

「じゃあな」

そう言うと少年はその場を去ろうとした。

「ま、待って!」

慌てて未来はその人の腕をつかんだ。

まだお礼も言ってないからだ。

「本当にありがとう。

あなたの名前は?」

「う…」

すると少年はまた困った顔をした。

「い、いいだろ名前なんて…どうでも…」

「そんなわけにはいかないよ。

名前を覚えていたら

お礼ができるかもしれないじゃん」

「いいよ、礼なんて。

助けたいから助けたんだ」

ぶっきらぼうに少年は言ったが

未来も引き下がらなかった。

「私は未来!ほら、あなたも名乗る!」

「はあ…仕方ないな」

一方的に言われ、少年はため息をついた。

面倒だと少年の顔に書いてあるようだった。

「俺は…エンマだ」

なにかを決めたようにエンマは言った。

「エンマ?不思議な名前だね?

あだ名とか?」

「お前、天然か?」

エンマは初めて微笑んだ。

にかっと歯を見せて笑い

太陽のような笑顔だった。

「エンマ、また会える?」

また会いたいと未来は強く思っていた。

「さあな」

そう言って曖昧に笑ったエンマは

今度こそ川辺を後にした。

「エンマ、か…」

未来はエンマの背中を見つめていたが

急にその姿は見えなくなった。

まるで不意に消えたようだった。

「え?」

未来が慌てて目をこすっても

エンマは見えない。

「どうして?」

未来は一人、川辺にたたずんでいた。


to be continued







素材はデコヤ様のものを加工しております。