第一九話「憂鬱」
「ふう…」
エンマ大王は執務に追われていた。
ぬらりはいない、未来の霊力の練習に付き合っているから。
自分も行きたかったが、今日中に終わらせなければいけない仕事があった。
「ちょっと休憩すっか」
そう言ってエンマ大王は席を立った。
早く仕事を終わらせて未来の様子を見に行きたいが、休みは必要だった。
エンマ大王は窓から見える城下町を見下ろした。
この景色をエンマ大王は好きだった。
この世界を守らなければならないと思うからだ。
しかし、今日は身が引き締まらなかった。
「未来…」
口にしたのは仮初めの婚約者の名前だ。
約束の一ヶ月まであと十数日しかない。
何事にも一生懸命な未来のことを、エンマ大王は好きになっていた。
叶うなら、今すぐにでも結婚したい。
「だが…」
未来の気持ちは分からない。
もちろん大分仲良くなれたと思う。
しかしそれは恋愛感情ではない気がした。
そして、ぬらり…。
彼は未来のことをどう思っているのか。
未来もだ。
未来はぬらりの前では特別な笑顔でいるような気がしてならない。
だから最近胸のもやもやが晴れなかった。
もし、二人が思い合っているならば祝福したいと思っている。
(未来は自由だ。誰を好きになっても仕方がないじゃないか)
エンマ大王はそう思ったが、知らず知らずのうちに両手は拳を作っていた。
「くそっ!」
エンマ大王は窓ガラスを叩いた。
ゴンという鈍い音がした。
エンマ大王はそのままため息をついた。
静かな部屋にエンマ大王は一人でいた。
to be continued
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