偶然の運命。







「名前?」
「………へ?」




コンビニから出ようとした瞬間、入れ違いで店内に入ろうとした女の人。何処かで見覚えが…と思ったら、長崎に居た頃の後輩であり、友人の名前だった。


突然の再開に、胸が大きく弾む。




「えっ、もしかしてケンちゃん?」
「そうばい! 久しぶりやねー!」
「ほんと久しぶり!」
「東京に居るのは知っとったとけど、まさかこがん所で会うとは」
「ね。なんだか嬉しいね」





そう言って微笑む名前の笑顔は、あの頃と何も変わっていなかった。大きな目が細くなる、安心感のある可愛らしい笑顔。


僕は、そんな彼女の笑顔がずっとずっと大好きだった。




「ケンちゃん家、この近くなの?」
「うん。ここから5分くらいのところばい。名前も?」
「わたしは会社がすぐ近くで。じゃあ途中まで一緒に帰ろっか」



彼女はそう言うと、足早に買い物を済ませ、入り口で待つ僕の処まで駆けてきた。




「おまたせ」
「良かよー」




名前と肩を並べて歩き出す。
こんな風にしていると、当時の事を思い出す。


彼女とは地元でずっと仲良くしていた。
数年前、名前が東京に就職したと長崎の友人から聞いてからずっと気にしていたのだが、携帯を替えて以来彼女の連絡先が分からなくなってしまい、会う事はおろか、接する方法が無かったのだ。


良い歳して何だが、こんなにばったり会えるなんて、運命なんじゃないかと思う。





「にしても名前、すっかり東京に馴染んどるねー。長崎弁なんてもう出てこんのじゃなか?」
「そんなことないよ。仕事柄標準語で喋る事が多いから慣れちゃっただけだよ」




地元帰ったら凄いんだからね、と戯けた表情で楽しそうに話す名前。そんな彼女の笑顔が、自然と僕にも伝染する。




「なぁ、名前」
「んー?」
「……昔ね、好いとったんよ。名前の事」
「へ?」




彼女の笑顔を観ていたら、ふと気付いた時には気持ちを口にしていた。
と言っても、昔の話だし。名前も軽く流してくれるだろうと思いきや。
ちらっと隣の彼女を見れば、かなり驚いた表情でこちらを見つめている。




「えっ、好きって」
「あ、あぁ、昔の事やけどね」
「あぁ…そうだよね」
「でも、おいが名前よりも先に東京に来て、東京で仕事ばしとる時も。ずっと想っとったよ」




嘘偽りない、本当の気持ち。
上京する時、彼女との別れが何よりも辛かったが、夢や目標の為に旅立った。


次第に忙しくなり名前の事を考える時間は減ったが、心の片隅にはいつも彼女が居た。彼女が支えだった。


それこそ名前に想いを伝えるのは今日が初めてだが、昔から想い続けていたのだ。





「…あ。おいの家、ここばい」
「あっ、そうなんだ」
「……ん」




あっという間に着いてしまった。
嗚呼、もっと家が遠かったら良かったのに。


そんなことを考えながら、なかなかその場から動けずに居ると、名前が鞄からスマホを出した。




「ケンちゃん、連絡先交換しようよ。昔のアドレス帳消えちゃってさ…」
「ああ、全然良かよ!」




慌ててスマホを出そうとして、思わず落としそうになる。そんな僕を見てケラケラ笑う名前。


そうだ。この笑い声。愛おしくてたまらなかったんだ。




連絡先を交換しながら、名前がゆっくりと口を開いた。




「…ねぇ、ケンちゃん」
「ん?」
「……わたしもだよ」
「へ?」
「わたしも、昔ケンちゃんが好きだった」




真っ直ぐ僕を見上げる名前。
突然の彼女の言葉に、声が出なくなる。




「また会おうね、ケンちゃん」
「う、うん!絶対やけんね!連絡すっから!」
「うん!じゃあ…またね」



嬉しそうな表情で小さく手を振る名前。
僕に背を向け、数歩歩いたかと思いきや、くるっと振り返り、もう一度手を振ってくれた。


僕も彼女に大きく手を振る。後ろ姿が見えなくなるまで。ずっと。




「…また会おうね、かぁ」




その言葉に胸を躍らせながら、つい先程彼女の連絡先が登録されたばかりのスマホを、大切にぎゅっと握りしめた。




















偶然の運命。

(本当はずっとずっと願っていたんだ、)

(君に逢いたいと)




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