踊る毛先、ココロ。






伸ばしていた髪を切った。
別に特別な理由はない。ただ、春だしイメチェンしたくなって、久しぶりにボブにしたのだ。


美容室を出て、彼の家まで歩く。
すっきりした髪が風になびいて、なんだか気持ちが良い。
髪型を変えると気分まで変わってしまうから不思議だ。自然と足取りも軽くなる。



ふと、ショーウィンドウのガラスにうつる自分に目を向けた。
…結構雰囲気変わったなぁ。
ケンちゃんはどう思うだろうか。


恋人であるケンちゃんに今から会う事に改めて意識をしてしまい、急にそわそわしてきた。


可愛いと思ってくれたら良いなぁ…。



そんなことを考えていたら、いつの間にか彼のマンションまで辿り着いていた。
ドキドキしながら部屋のインターフォンを押す。


数秒後、ガチャッと開いた扉。
目の前には大好きなケンちゃん。
…が、その姿は固まっている。




「ケ、ケンちゃん?」
「…………………」
「あ、やっぱり変かな、髪の毛…」



ぽかんとした表情でこちらを見るケンちゃんの姿に、急に自信が無くなってきた。
ああ、やっぱり似合わなかったかな…。


少し後悔していると、いきなり手を引っ張られ、ケンちゃんの方へと引き寄せられた。


ふわりと髪を撫でられる。





「…か、可愛かねー!」
「えっ」
「ばり可愛かよ!むっちゃ似合っとる!あ、とりあえず入って!」




促されるがまま、リビングに通される。
そのままソファに座っても、ケンちゃんは依然としてわたしの髪を触りながら「可愛かねぇ」を連呼している。


そんなに褒めてもらえるとは思っていなかったもんだから、思わず顔が熱くなる。




「似合ってなかったらどうしようかと思ったよ」
「そんなことある訳なかー。名前はどんな髪型でもばり可愛かよ」




満面の笑顔でそう言うケンちゃんに、わたしも照れ笑い。
こんなにも嬉しそうに褒めてくれると、さっきまでの一瞬の後悔も何処かに消えてしまい、バッサリ切って良かったとさえ思える。




「あ、可愛いから写真撮ってもよか?」
「そ、そこまで?」



なんだか照れるけど、大好きな人に「可愛い」と言われるのは最高に嬉しい。
それに、楽しそうにシャッターを切る彼の姿がとても愛おしい。



きっと、彼が居ればわたしはずっと可愛く居られると思う。
「可愛いの魔法」をかけてくれるのは他の誰でも無い、君なんだ。
















踊る毛先、ココロ。

(あ、でも何だか竜太朗さんと髪型似とるね)

(えっ)

(まぁ、可愛いから良かよ〜)






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