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部屋から飛び出し、ついには旅館からも飛び出してしまったナオミさん。それを必死で追いかけるわたしたち。
しかし、彼女はあるところでピタリと止まった。
雄大な景色が望める展望台。
そこで、肩で息をしながらナオミさんは立ち止まったのだ。
明智探偵事務所 事件簿 Vol.13
「…ナオミさん?」
恐る恐る声をかけると、彼女は膝から崩れ落ちて、そのまま項垂れてしまった。後ろ姿なので表情は見えないが、背中から何か切なさを感じたような気がした。
「…ほんとに…何なのよあんたたちは」
「へ?」
「どうして私を追いかけたりするのよ」
「だって…ナオミさんは明智探偵団の…」
「だから!バカじゃないの!」
大きな声を上げ、こちらを振り向くナオミさん。その大きな瞳からは、涙が溢れ零れていた。
「わ、わたしはっ…あんたたち明智探偵団を潰しに来たのよ!?」
「そ、それは分かってますけど…」
「なのにっ…どうしてこんなに心が痛むのよ……」
ナオミさんの視線は、あたしの後ろに立つ先生に向けられた。
「…明智さん」
「なんですか」
「さっきあなたの助手が言ったように、わたしもあなたが元気がないのは嫌なの」
「…ナオミさん」
「どうして笑ってくれないの?これじゃあ助手たちも可哀想じゃない!」
「ナオミさん、何言って…」
「もう分かんないの!この新春恒例年越社員旅行が楽しくって…あなたたちと過ごすのが楽しくて…」
「……………」
「わ、わたし、明智さんのことが好きなの。だから元気の無い姿なんて見たくないわよ…」
そこまで言うとナオミさんは涙を拭い、立ち上がった。
そのままあたしに近付くと、ぽんっと肩を叩いた。
その部分だけ、やけに温かくなったような気がして、その場から動けなくなった。
「明智さん、ごめんなさい」
少し後ろの方で、ナオミさんと先生の声が聞こえる。
「明智さんのこと、本当に好きだったの」
「ナオミさん…」
「でも、もうさよならね」
振り返ると、もうそこにはナオミさんは居なかった。ケンケンくんが追いかけようとするが、先生が腕を引っ張り止めた。
ナオミさんが触れた肩の温もり。
ナオミさんの涙。
ナオミさんの先生に対する想い。
そして、明智探偵団に対する想い。
ナオミさんの気持ちが全ては明らかになった訳ではないけど、あたしは何か大切なものを得たような気がした。
振り返ると、先生と少年たちがこちらを見ていた。一歩一歩近寄ると、右手を先生に握られた。
「…ナオミさんのことは後で考えましょう」
「…はい」
「名前、少年たち、とりあえず部屋に戻りましょうか」
「はい」
ナオミさんが去った後をちらりと振り返る。彼女は、どこへ行ってしまったんだろう。
悪者だったのに。あたしのライバルだったのに。
どうして明智探偵団に情なんか湧いてしまったんだろう。
でも、きっとそれはナオミさんが一番疑問に思ってることだ。あたしがとやかく言えることじゃない。
ふと夜空を見上げれば、満天の星空が輝いていた。
(交差する皆の想い。)
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