chocolate melody.
「ん、これ美味しいよ」
「え、ひとくち頂戴」
「はい、どーぞ」
あーんと口を開く名前に、最近新発売されたチョコレートを食べさせてあげる。
もぐもぐとチョコレートを味わう名前はたちまち笑顔になり、嬉しそうに僕を見上げた。
「んふふ、ほんとだ。美味しいね」
「でしょ?絶対名前の好きな感じだと思ったもん」
燦々と陽射しが差し込む昼休み。賑やかな教室の一番窓側の席で名前と一緒に過ごすのが、僕の日課であり大切な時間。
もう一個ちょうだーい、とねだる名前にまたチョコレートを食べさせる。甘いものを食べているときの彼女の笑顔はとても可愛くて癒される。そんな名前を眺めていたら、急にずしんと背中が重くなった。
「めーいーくーん」
「わっ、ミズキ何〜」
「俺にもチョコちょうだいよ」
背中に乗っかってきた犯人は友達であるミズキ。彼にもひとつチョコレートを口に放り込んであげる。
「ん、うまい」
「でしょ?メイくんがくれるものいつも美味しいもんね」
「あはは、ありがと」
「…ったく、今日もあいかわらずラブラブですね〜」
そう言いながら僕の隣に座るミズキ。そして、そんな彼の言葉にきょとんとする名前。
そんな彼女を見て、チクリと痛くなる胸。
「ラブラブって?誰が?」
「へ?君ら付き合ってるんじゃないの?」
「あはは、何言ってんのミズキくん」
屈託のない笑顔でそう笑う名前。何も言えない僕は、ただ目線を下に向けて無理に笑顔を作るだけ。
「メイくんはただのお友達だよ」
「へっ、そうなの?」
「あたりまえじゃん〜」
あたりまえ。
彼女のその言葉に胸の痛みは増した。
隣のミズキも、少し戸惑っているようだ。
僕は僕なりに名前に想いは伝えているつもりなんだけどな。なかなか届かない気持ちは、空気中を彷徨って弾け消えてしまいそうだ。
「うん。俺と名前は友達だよ」
「そ、そっか」
「……今はね」
ミズキのほうに顔を向けてそう言えば、彼は大きな目を見開いて驚いたような顔をしたが、ニッと笑うと僕の頭に手を置いて、小声で「頑張れ」と言ってくれた。
相変わらず名前はぽかんとしていて、何が何だか分かっていないような感じだけど、僕はめげないからね。
鈍感な彼女に、いつかこの想いが全て伝わりますように。
少し溶けかかったチョコレートを口に含めば、僕の笑顔も自然と溢れた。
chocolate melody.
(ぜったい諦めたりしないからね!)