でこぼこなふたり。





「おはよー、ミズキ、名前」
「おはよー、春くん」
「……にしても今日もデコボコだな」



朝、昇降口で会った春くんが、わたしたちに交互に目を向けながらそう言った。


げた箱で靴を履き替えながら、ミズキくんを見上げる。
彼氏であるミズキくんはとても背が高く、わたしとの身長差はかなりのもの。そのため、ミズキくんと話すときはなかなか大変で、少し首が痛くなる。



「春くん、もうそれ聞き飽きたよー」
「ごめんごめん。いつ見てもすげぇ身長差だからつい」
「分かってるよ、そんなこと」
「まあ君たち有名だしね」



そう言う春くんに、ミズキくんが呆れたように笑う。
…そう。何故かわたしたちは校内で「デコボコカップル」として有名になってしまったのだ。


学校で二人で居れば、すぐにからかわれるしいじられる。挙げ句の果てには「すごーい!」だなんて尊敬の目まで向けられ始めた。まあ、そんなことはあまり気にしていないんだけど、注目されるのは少し恥ずかしいな…なんて思ったり。









「あ、じゃあ俺バイトだからそろそろ帰るね。ミズキ待つんでしょ?」
「うん。担任に用事あるらしいから待っとく。じゃあまた明日ね」



放課後の教室。ミズキくんを待っている間、メイくんと和やかに雑談していたが、彼は時計を目にすると慌てて鞄を手にした。


ひらひらと手を振りながら教室を出て行くメイくんを見送り、ひとり残された教室で大きくあくびをする。


すると、教室の扉が静かに開き、ミズキくんが顔を出した。



「あれ、終わるの早かったね」
「あぁ、うん」
「じゃあ帰ろっか」
「…うん」



鞄を手に取りミズキくんの元へ駆け寄る。彼を見上げれば、何故か浮かない顔をしていて、全く目を合わせてくれない。


何かあったのかと思い、問おうとした瞬間。何故かわたしはミズキくんの腕の中にすっぽりと収まっていた。



「ミ、ミズキくん?」
「ごめんな」
「へ?」
「嫌な思いさせてない?」



頭上から零れる言葉。その意味が分からず、思わずボケっとしてしまう。



「あ、あの、ミズキくん?」
「……デコボコなのってさ、」
「へ?」
「不釣り合いってことなのかな」



ミズキくんの腕の力が弱まり、やっと彼と目が合ったと思えば、その表情はひどく悲しそうで。心が凍てつく感覚に包まれた。



「な、何言ってんの?」
「…今日クラスの女子がさ、メイくんと名前が話してるの見てお似合いだって言っててさ」
「……………………」
「俺らってそういう風に言われたことないじゃん」
「そ、そんなこと…」
「……お似合いじゃねぇのかな」



そのままわたしから視線を逸らすミズキくん。彼のその言葉に、何だか距離を感じた。
なんで?どうして?
こんなに近くにいるのに、何故こんなに遠いんだろう。




「そ、そんなことないよ!」



無意識に、大きな声でそう発していた。
滅多に大声を出さないわたしに、ミズキくんも驚いて目を見開いている。


心臓がドキドキと高鳴る。
伝えたい気持ちが上手く言葉に出来ない。


そのまま口を閉ざしていると、再びミズキくんの腕の中に閉じ込められた。



「ごめんな、名前」
「………ち、違う、あの…」
「女々しいよな、俺」



あはは、といつもの笑顔で笑うミズキくん。その姿を見て、少しホッとしたが、まだ胸の辺りでモヤモヤが渦巻く。


彼を見上げれば、やはり少し首が辛いけど。でも。



「わ、わたしは…」
「ん?」
「わたしはミズキくんの身長が何センチでも、ミズキくんがミズキくんなら、大好きなんだよ」



いちばん伝えたかったこと。
当たり前だけど、なかなか伝わらなかった気持ち。


周りの目はもちろん気になるけど、でも、そんなの関係ないくらいわたしは彼のことが大好きなのだ。



「名前…」



ミズキくんが大きく屈めば、優しい口付けが落とされた。



「ごめんな、ありがとう」
「…本当だよ、もう」
「あはは、許して」



少しいじわるするように言えば、よしよしと小さな子をあやすようにわたしの頭を撫でた。


抱きしめられたときの彼に埋もれる感覚も、キスのときに屈んでくれる彼の仕草も、全部わたしの特権なんだもん。


お互いの気持ちが吊り合っていれば、それでお似合いって言えるんだよ、きっと。


全てが愛おしいミズキくんのことを、この先もずっとずっと見上げていきたい。…って思ってるのは、まだ彼には秘密にしておこうかな。














でこぼこなふたり。


(身長差は大きくても、)

(心の距離は0センチだから。)




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