愛をください

今日も友達はみんな部活。もしくは彼氏と下校。
帰宅部の私はやる事が浮かばずとりあえず本屋で立ち読みでもするかと重い足取りで歩き始める。
すると後ろから私を呼ぶ声とこちらへ駆けてくる足音が聞こえた。

「お〜い!絢那〜!!」

聞き慣れたその声は浅村賢吾その人だった。
賢吾とは腐れ縁もいいところで、幼稚園から同じ所に通っている。

『よ。で、なに?というか、昶は?』

「え!?昶と会わなかったのか?」

『うん。もしかして探してたの?』

「そうだけど・・・もう帰ったのかなぁ?」

頭をくしゃくしゃと掻きながら辺りを見回す。

「帰ったもんはしょうがないか。そういえば、お前これからどっかに行くのか?」

『ちょっと、本屋で立ち読みでもしようかと思って』

「へ〜。じゃ、俺も一緒にいいか?」

『別にいいけど。』

そういうと彼は屈託のない笑顔を浮かべて「サンキュ!」と言った。
本屋までの道のりを賢吾とのくだらない会話で埋め尽くすことによって私の心の中にある
重く沈んだ感情を忘れることが出来た。

帰りにあんなことを言われなければ。


「絢那ってさ、毎日こうやって一人でふらふらしてるのか?」

『まぁねー。だから何?賢吾には関係ないことでしょ?』

「それってさ、寂しくないのか?」

心の中の闇が溢れそうになった。

『別に。それにみんな忙しいから私と遊んでる暇は無いんだって。ほら、青春してるんだって。部活とか恋愛とか。』

「じゃ、絢那も青春すれば?」

『出来たらもう、してるよ!!!』

そう言い残すとその場から逃げるように走り去ってしまった。

家に帰ってから、独り泣いていた。
中学の友達も高校の友達も今の一番は私じゃない。
高校に入ってから感じていたことだ。
みんな私から離れていく。
もう、誰も私のことなんて必要としていない。
苛々が虚しさへと変わる。

『私は、独りなの!?もう、誰も必要としていないんだ・・・!ちがう、ちがうよ!』

生きていたって仕方がない。

今、欲しいものは何?

わかんないよ・・・・。

次の日、いつもどおりに学校へ行き、いつもどおりに授業を受け、
いつもどおりに嘘の笑みを浮かべて過ごした


『今日は、どーしようかなー』

いつもどおりに時間潰しの方法を考えていた時だった。
昨日と同じく、彼の声と足音がした。
なんだか気まずい気がしたが何ともなかったような表情の彼にそれは打ち消された。

「お前さ、今日も一人で暇なんだろ?ちょっと話したいんだけど、どっか行こう?」

『あー、うん。いいけど、どこに行くのさ?』

「う〜ん・・・・・。」





『で、こんなところに来て話す事ってなに?思い出話?』

着いたのは滑り台とベンチしかない殺風景な公園。
週に何人の人が訪れるであろうかと思うほどわびしい所だった。

「あのさ絢那は自分は独りだって思ってるだろ?」

何を言い出すかと思えばそんなことか。今、最もしたくない話だ。

『そうだけど。別に私がどう思ったっていいじゃない。』

「それってさ、俺たちは友達じゃないってことなのか?」

『友達だよ。今はね。そのうち私の事忘れるでしょ。』

どうせ、そのうちみんな居なくなってしまうから。

「忘れない!他の奴らが忘れたとしても俺は絢那の事を絶対に忘れたりなんか『本当にそう言い切れるの?将来自分たちがどうなっているのか分からないのに?』

こうなるととことんネガティブになるのが私の悪い癖で、彼の言葉を遮る。

『どうせ、みんな私から離れていくんだから。止めようなんて思わないよ、権利なんてないしね。』

「俺は離れない。絢那が好きだから。俺は絢那が1番だから・・・!!」

その言葉を聞いた瞬間、いきなりの告白に頭が真っ白になってしまった。

そういえばここに着いてから一度も賢吾とは眼を合せていない。
ずっとどこか遠くを眺めていた。
けれど、彼はずっと私のことを見ていた。

『私なんかじゃ…賢吾に応えられないかもしれない…』

「うん。いいよそれでも。ただ俺には絢那が必要だってことを伝えたかっただけだから。なにか言いたいこと、あるんじゃねぇの?」

その声はあまりにも優しく、私の気持ちを素直にさせるには十分だった。
賢吾は私を必要としてくれている・・・?
もう誰も必要としてないと思ってたのに。

やっと分かった。

私が欲してたモノ。

それは私を必要としてくれるひと。生きる意味。

私は誰かに愛されていたいのだ。

彼の制服の握りしめ、顔をあげた。
涙でぼやけていたが、しっかりと私を見つめる彼が確認できた。
初めて彼と目を合わせた気がする。

『私を・・・私を愛、して・・・・!!』

なんて傲慢で馬鹿げたことを言っているのだろうか。
でも、一番言いたかった言葉。

すでに泣いているが、それを更に抑え、やっと声に出していえたその言葉はあまりにも
弱く、切なかった。

優しく包み込むように抱き締めてくれた彼の温かさは私が求めていたものそのもの。

「今まで、辛かったな・・・・。大丈夫、絢那は独りじゃない。
俺がいてやるから。その涙も全部俺が受け止めてやるから。」

声をあげて私は泣いていた。
いろんな意味を込めて。
賢吾は私が落ち着くまで何度も名前を呼んだり、優しく頭を撫でてくれた。
そして、なんどもささやいてくれた

「愛してる。」と


彼がくれたのは生きる理由と生きる希望。
私は彼のために生きて行こう。

初めて誰かを好きになった。
初めて誰かを愛した。

これから先の生きる道を
たった一人の存在が照らしてくれた。




もう、空虚は消え失せた。



end.
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