夏祭り
―キーンコーンカーンコーン―
放課後を知らせるチャイム、もとい、一学期の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
部活がある人は早々と教室を出て行く。
掃除当番の人はダルそうにそれぞれの掃除場所へと向かって行く。
部活に入っていない、掃除当番でもない私は、いつもの様に自分のペースで教室を出て、家に向かって歩きだす。
今日はこの後何をしようか、夏休み中は何をしようかとうっすらと考えていると、後から自分を呼ぶ声がした。
「絢那。」
『んー?あれ、昶じゃん?何?』
すると昶は少し照れた様子で視線を何処かにそらしていた。
『……?どうかした?』
「いや、その……。お前さ、今週の日曜の夜暇か?」
『うん。っていうか、毎日暇だけど。』
「そうか…。……その日さ、花火見に行かないか?」
『はい?』
思ってもいなかった。
誰かに、いや、好きな人に誘われるなんて。
「ダメ、か…?」
『あ、うん。行く!』
「そうか。」
昶は嬉しそうだったけど、私は多分それ以上嬉しかった。
そして、今日はその日。
せっかく花火を見に行くのだからと、私はゆかたを着て待ち合わせの場所へと向かった。
『昶!』
昶は既にその場所に居た。
彼もゆかたを着ていてる。
さすが昶だ。
ただでさえカッコいいのに、ゆかたを着ることでさらにカッコよくてまわりの女性の注目の視線が注がれる。
「早かったな、絢那。」
『昶のほうが早いから。ごめんね、待てせて。
ていうかさ、すごいゆかた似合うんだね。』
素直に言うと、昶もまた素直に「ありがとう」と返してくれた。
そして、歩きだす。
会話はしているが、どうでもいい事ばかり。
会場に着くと、たくさんの人で溢れていた。
辺りには、屋台の列が出来ていて、屋台が好きな私はかなりテンションが上がってきた。
「すげえ人だな……。…絢那?」
『ねぇ、昶!屋台行こう!!屋台!!』
「は?ちょっ…おい!」
私は昶の手を引いて走りだした。
『いいから、早く!あ、たこ焼きだ!たこ焼き!!』
「わかったから、そんなに引っ張るなって!」
花火が打ち上がるまでの時間、私は昶をあちらこちらと連れ回した。
『楽しみだね、花火。』
「あぁ…。」
疲れた返事が返ってきた。
かなり、私は昶の事を連れ回したようだ。
『ゴメン、私のせいで疲れたよね…。屋台見るとつい・・・。』
「別に。むしろ、楽しかったし……」
『ホントに!?良かった!』
そう言って微笑むとほぼ同時に幾つもの色鮮やかな花火が打ち上がった。
ふと、彼を見た。
鮮やかな光に照らされた彼の表情はとても綺麗で、花火よりも輝かしかった。
『昶。私、昶のことが好きだよ。』
咲き続ける花火の音にかき消されることを願って私は呟く。
「………俺も好きだ。絢那が……好きだ。」
『っ・・・・!!聞こえてた!?』
「まぁな。それに、お前の声を聞き逃すなんてしねぇよ。」
『なんか、すっごく恥ずかしいんだけど・・・。まぁ、いっか』
夢のような夜。
私はきっと、いや、絶対にこの夜を忘れない。
貴方と想いがひとつになった夜だから………。
end.